|
食品安全における消費者庁の役割が拡大
国立医薬品食品衛生研究所名誉所員 (元食品部長、元食品添加物部長) 米谷 民雄 Ⅰ.はじめに消費者行政全般を監視する組織として消費者庁が発足して丸16年が経過した。近年では食品関連の報道で消費者庁の名前を目にすることが多くなっている。同庁が担当する食品関連業務が拡大するとともに、措置命令等を頻繁に発出しているためでもある。そこで消費者庁の食品安全関連業務について、その業務範囲の拡大の様子を、最近のトピックス事例も含めて振り返ってみた。
Ⅱ.消費者庁関連3法による体制の整備消費者庁は2009年9月1日にその設置法(正式名称:消費者庁及び消費者委員会設置法)が施行され、消費者委員会と共に発足した。消費者行政の司令塔として縦割り行政を横断するために、内閣府の外局の庁として設置され、各省庁と連携して政策の推進を図っている。その任務は設置法の第3条で、「消費者の利益の擁護及び増進、商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行うこと」とされている。 消費者庁に上記任務を遂行させるための整備法(正式名称:消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律)により、食品関連では食品衛生法やJAS法、食品安全基本法、景品表示法(景表法)などから、一部の任務が消費者庁に移管された。さらに消費者安全法が制定され、国及び地方公共団体の責務、地方公共団体による消費生活センターの設置等が規定され、消費者行政の体制整備がなされた。 以下に、食品安全に関する消費者庁の主な業務について概説する。
Ⅲ.食品表示1)保健機能食品、特別用途食品、遺伝子組換え食品の表示 2009年9月1日に消費者庁が発足し、食品表示制度が消費者庁に移管され、保健機能食品(当時は特定保健用食品と栄養機能食品)、特別用途食品(病者用食品など)、遺伝子組換え食品の表示制度が厚生労働省から消費者庁に移管された。さらに2015年4月1日から機能性表示食品が新たに保健機能食品に加わった。 機能性表示食品制度は「国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示できる制度」であり、国が審査を行わないので事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要がある。2024年に紅麹を使った製品が大きな問題となったが、消費者庁はそれ以前から徐々に機能性表示食品への対応を強めていた。 最初に企業が機能性表示食品の届け出を撤回せざるを得なくなったのは、2018年11月の薬機法抵触事例である。「歩行能力の改善」と表示した機能性表示食品が厚生労働省により医薬品的効果の表示を禁じる薬機法に抵触すると指摘されたため、消費者庁が企業に対応を求め、企業が届け出を撤回したのである。そのため、2020年3月に発出された「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」1)の中では、届出された機能性に係る表示について、「機能性表示食品は疾病に罹患している者を対象とするものではなく、疾病の予防・治療等を目的とした医薬品的効果効能を表示することはできない」と警告している。 さらに2023年6月30日には注目すべき措置命令が出された。「表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠くと認められる場合には、その表示は景表法等に基づく虚偽誇大表示や食品表示法の食品表示基準違反に当たるおそれがある」として科学的根拠資料の再検証を求めたもので、科学的根拠として提出された論文の内容を国が検証した結果の発出であった。そして同年7月3日付で、届出している食品について科学的根拠を再検証するよう、関係団体に依頼文書を発出した2)。国は審査を行わないが、検証はするのである。
2)機能性表示食品制度の見直し─紅麹事件への対応─(トピックス) 2024年に紅麹含有製品の事件が発生した。そのため再発を防止するため機能性表示食品制度が見直され、食品表示基準(内閣府令)が改正された(2024年9月1日施行)。①健康被害の情報提供が義務化され(即日実施)、②GMP(Good Manufacturing Practice、適正製造規範)に基づく製造管理が従来の推奨事項から遵守事項となった(2026年9月1日から実施)のである。 さらに機能性表示食品制度開始10周年目の2025年3月25日には新規の「機能性表示食品の届出等に関する手引き」3)が制定され、4月1日から適用された。これまでの制度運用改変の中で最大のものであり、特に届け出の際の機能性エビデンスのシステマティックレビュー(SR:届出資料では研究レビュー)がPRISMA声明(2020年)に準拠することを求めているのが特徴である。PRISMAはPreferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysesの略で、従来のPRISMA声明(2009年)準拠よりもより詳細な記載を要求しており、科学的根拠への厳しい姿勢が示されている。「手引き」にはPRISMA 2020の資料も掲げられている3)。なお既存届出については内容変更がなければ従来のPRISMA声明2009準拠でよい4)が、PRISMA声明2020に準拠したSRへの変更届出を行うよう求めている。
3)一般食品の表示 消費者庁の発足により、従来の食品衛生法、健康増進法、JAS法による一般食品の表示基準の企画立案・執行等が消費者庁に移管されていたが、2013年6月28日公布の食品表示法(消費者庁所管)により食品表示が一元化された。表示ルールは2015年制定の食品表示基準(内閣府令)で定められ、複数の猶予期間を経て、最終的に2020年4月1日から完全実施された。しかしその時点でも今後の課題として残された項目がいくつかあり、その後対応がなされた項目については本メルマガですでに解説した5)。しかし現在でも「中食・外食へのアレルギー表示」や「ネット販売における食品表示」などが残されている。
4)包装前面栄養表示ガイドライン(トピックス) 食品表示法により食品表示が一元化された際に、栄養成分表示も義務化された。一方、世界的に適切な栄養摂取への関心が高まるにつれ、海外では通常の栄養成分表示に加え、包装前面に分かりやすく栄養表示する動きが起きており、コーデックス委員会も2021年に包装前面栄養表示ガイドラインを公表している6)。 そこで我が国でも日本版包装前面栄養表示ガイドライン(案)7)が消費者庁より示され、2025年10月21日までパブリックコメントが実施された。年内にガイドライン公表の予定である。加工食品1食分(1袋)当たりのエネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の量と、それらが1日当たりの摂取目安(食品表示基準別表第10に規定する値)8)に占める割合(整数%値)を、包装(容器)前面など目立つ場所に掲載することを求めている。従来からの栄養成分表示はそのまま残す。包装前面栄養表示は義務化ではない。なお上記別表第10の値のいくつかは2025年の日本人の食事摂取基準の改訂に伴い数値が変更されたが、今後変更されるたびに包装前面栄養表示の数値も変更する必要がある。
Ⅳ.食品の規格基準策定厚生労働省の感染症対策を強化し、消費者庁に食品安全行政を集約する観点から、食品の規格基準策定の業務も2024年4月1日に厚生労働省から消費者庁に移管された。ただし、規格基準が守られているかの監視業務はそのまま厚生労働省に残るため、事件が起こると厚生労働省が前面に出てくることになる。 規格基準策定業務の移管により、農薬の残留基準設定や食品添加物指定の業務が消費者庁の担当となる。食品安全が騒がれた頃にはポストハーベスト農薬やネオニコチノイド農薬の基準値、食品添加物の着色料・保存料の指定品目などが槍玉に上がったが、消費者庁の担当になり変化があるであろうか。 1)乳等省令が乳等命令へ名称変更 規格基準策定が消費者庁に移管されたため、厚生労働省時代の乳等省令が乳等命令に名称変更された。
2)食品としての水の規格基準(トピックス) 水道の水質・衛生事務も2024年4月1日に厚生労働省から環境省に移管されたが、食品としての水(ミネラルウォーター等)の規格基準は消費者庁の担当になる。発がん性が指摘される有機フッ素化合物PFASについては、食品衛生基準審議会の食品規格の部会で2025年2月10日にミネラルウォーター中の基準値が議論され、水道水と同じく、PFOS及びPFOA の合計値で1L当たり50ナノグラムとする案が了承された。ミネラルウォーターは殺菌・除菌の有無で2種類に分類されるが、部会は「有」では水道水と同じ基準値とし、「無」では原水採取の段階で厳格な管理が行われているとして、基準値は設定せずとされた。同年6月30日にその成分規格が告示され、「無」の場合については「有」での値で泉源の衛生管理の指導を行うよう求めている9)。
3)食用タール色素の指定(トピックス) 食品添加物の指定について、2025年1月に米国から大きなニュースが飛び込んできた。米国FDAが2025年1月15日に、着色料「赤色3号」の食品への使用を2027年1月までに禁止するよう求めたというものである。ただしFDAは「雄ラットにおける発がん性の発生機序はラット特有のものであり、ヒトでは発生しないこと」も付け加えている10)。また、2月18日に開催された消費者庁審議会の添加物部会は、食用赤色3号については閾値の設定が可能であること、ラット試験で甲状腺発がんが認められた用量は人が摂取する用量に比べ極めて高用量であることから、人では安全性上問題とならないとしている11)。 食用赤色3号(エリスロシン)は動物実験の結果から時々話題になる品目である。消費者庁は問題はないとしつつ、念のためそれを含有する食品に関する自主点検を依頼している12)。以前に一部の医薬品で食用赤色3号の最大一日摂取量が、EFSAやJECFAによるADI(0.1 mg/kg 体重/日)を超えると確認されたためである。対象食品は2025年4月現在国内流通している食品で、錠剤、カプセル剤、粉末剤、ドリンク剤及びドリンク剤類似清涼飲料水等の形態を有し、かつ、一日当たりの目安の摂取量を明示している食品とした。その結果、対象食品については、算出した最大一日摂取量が0.1 mg/kg 体重/日を上回る製品の報告はなかったと、6月3日の添加物部会で報告されている13)。 今後注目されるのは、他の食用タール色素への影響である。我が国の食用タール色素は科学的知見に基づいて使用されているが、食用赤色タール色素に限っても、赤色2号は米国で禁止、赤色102号は米国・カナダで禁止されている。さらに赤色104、105、106号は主要国で使用されておらずJECFA評価もないため、国内で独自に反復投与試験・遺伝毒性試験を実施し安全性を確認して使用している現状である14)。今後、何か動きがあるであろうか。
Ⅴ.ステルスマーケティング(ステマ)規制食品表示基準はECサイトの食品表示情報の掲載については適用範囲外だが、コーデックスでは協議中である。我が国でも2022年6月に「インターネット販売における食品表示の情報提供に関するガイドブック」がすでに公表されており15)、いわゆる「ダークパターン」への対応も開始されている16)。 このインターネット販売に密接に関連しているのが、ステマである。消費者庁はこれが「不当表示」にあたるとして、2023年10月1日から景表法での規制を開始している。ステマ規制の対象は、①事業者の広告であって、②一般消費者には広告であることが分からないものである。広告には、企業がインフルエンサー等の第三者に依頼・指示するものも含まれ、インターネット上の表示だけでなくテレビ、新聞、ラジオ、雑誌等の表示も対象になる。逆に、個人の感想等の広告でないものや、テレビCMのように広告と分かるものは対象外になる。ステマ規制の運用では、①「事業者が自己の商品又は役務の取引について行う表示」であり、②「消費者が事業者の表示と判別することが困難である」こと、の両方がそろう必要がある。 2年前からのステマ規制では広い分野で景表法に基づく措置命令が出されており、食品関連では2024年末に、大手製薬メーカーのサプリメントの表示でステマ認定がされている。アンチエイジング効果をうたうサプリメントについてインフルエンサーにインスタグラム上での宣伝を依頼したが、その投稿を自社オンラインショップに転載する際に、「広告」・「PR」等の消費者が宣伝と判断できる表示がなかったため、閲覧者に第三者の感想と誤認させる表示と判定されたのである。元のインスタへの投稿には「PR」と表示があり、問題はなかった。同じ企業の広告からの引用に際しても、「PR」等の表示が必要であると注意喚起する措置命令のようである。 ステマ規制では消費者庁だけでは限界があるため、消費者に情報提供を求める「ステルスマーケティングに関する景品表示法違反被疑情報提供フォーム」が消費者庁ホームページに開設されている17)。
Ⅵ.消費者庁の措置命令を取り消す判決消費者庁は名称の通り消費者の見方であり、消費者庁の措置命令に従うのは当然のように思われていたが、措置命令の取り消しを求めた訴訟で消費者庁が敗訴する事案が発生した。糖質カット炊飯器の表示が景表法違反(優良誤認表示)に当たるとした消費者庁の措置命令(2023年10月)の取り消しを求めた訴訟で、東京地裁が2025年7月に措置命令を取り消す判決を下した。景表法違反の措置命令を取り消す判決は初めて18)であり、消費者庁は控訴している。 当該糖質カット炊飯器の「美味しさそのまま糖質○○%カット」の表示を、消費者庁は「通常と同様の炊き上がりで糖質カットできるように示すもので景表法違反」としたが、判決では「通常とは調理工程が異なると示されていて、消費者が通常と同様の炊き上がりになると認識するとはいえず、宣伝の表現には通常機能で炊いたご飯と同様の炊き上がりになることを示す直接の文言はない」として、措置命令を取り消した。 この措置命令が出る前の2023年3月には、(独法)国民生活センターが「糖質を低減できるとうたった電気炊飯器の実際」について調査結果を報告しており、行政への要望も出していた19)。そこでは、糖質の低減率が広告表示を満たしていない場合があることや、「通常炊飯」と「糖質カット炊飯」で含まれる糖質総量に大きな差はみられないことがポイントとなっていた(水分増加により糖質濃度は減少する)。判決は糖質カットの科学的根拠へのものではなく、「おいしさそのまま」表現に対する判決であった。今回は、表示を見てどう受け取るかが争われた裁判であり、今後の上級審での判決は食品表示のあり方や規制にも大きな影響を与える。消費者には深い洞察力をもって表示を見るよう、賢い消費者になることが求められているようである。
Ⅶ.おわりに以上、食品安全に関する消費者庁の役割を概観した。上述の他に消費者庁は、食品偽装表示などを告発した内部告発者を保護する公益通報者保護法も担当しており、また最近では消費者教育の一環として食品ロス削減の旗振りもしている。 元々他省庁が担っていた消費者関連行政を1つの庁にまとめたため、消費者庁には元の省庁からの出向者も多いと思われる。そのような組織で、所管する(独法)国民生活センターや地方自治体の消費生活センターと連携して、消費者行政を実施している。 消費者庁は2025年3月に第5期消費者基本計画を策定し公表した20)。様々な社会情勢の変化に対応するための消費者政策の大綱が示されている。今後の業務は益々大変になると予想されるが、消費者行政の司令塔として頑張っていただきたい。
文献
略歴
米谷 民雄
国立医薬品食品衛生研究所名誉所員 (元食品部長、元食品添加物部長)
京都大学大学院博士課程修了。環境庁国立公害研究所及び米国カンザス大学メディカルセンターで生体中の微量元素を研究。国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部室長・部長及び食品部部長として、既存添加物制度と農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究サイドの中心として対応。2005年度日本食品衛生学会賞受賞。2009-2010年度(公社)日本食品衛生学会会長。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授として茶中の残留農薬を研究。現在も同大学にて講義を継続中。 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
| Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved. |