水分は、食品分析における最も基本的な分析項目のひとつである。食品の栄養成分の表示にあっては、炭水化物、糖質の差し引き計算や熱量への換算にその正確さが大きく影響する。
食品中の水分含量は1%以下(凍結乾燥された加工食品など)から99%以上(茶の飲料など)までさまざまであるうえ、共存成分は複雑であり単一ではない。自由水として存在する場合と結合水として存在する場合とがあり、通常、前者は水溶液としての蒸気圧を示し、比較的蒸発しやすい。後者は結晶水として、あるいはたんぱく質や多糖類などの高分子と水素結合した状態で存在しているため比較的蒸発しにくい。従って、食品群毎に乾燥条件を最適化したうえで分析することが重要である。
分析に用いられる代表的な方法は、加熱乾燥法とカール・フィッシャー法である。その他にも蒸留法、電気水分計法、近赤外分光分析法、ガスクロマトグラフ法及び核磁気共鳴吸収法があるが、今回は加熱乾燥法とカール・フィッシャー法について詳しく紹介する。
紹介前に、加熱乾燥法は古くから多くの食品に適用されている方法であり、加熱による重量減量分を水分と定義し、極力、水分のみが蒸発する条件を設定している。また、日本食品標準成分表や健康増進法における「栄養表示基準」(平成11年4月26日 衛新第13号)において食品毎にさまざまな乾燥条件が設定されており、最も幅広い食品に適用される方法であるということを知っていただきたい。
本法は、加熱乾燥前後の重量測定を基本としているため簡便であり、多くの食品に基準法として適用される。
1)常圧加熱乾燥法
一般に強制循環通風式の乾燥器を用いて、対流、伝導、輻射によって加熱を行い、一定温度で一定時間乾燥した際の試料の重量減量分を水分として分析する方法である。
食品の水蒸気圧を高め、周囲の雰囲気の水蒸気圧を相対的に低くすることによって水の蒸発を進行させるため、高温になるほど効率が高くなる。しかし、熱に不安定な成分を含有する食品も多く、それらは加熱温度が高くなるに従い成分間の反応、分解により揮散量が増大し、過大の測定値となってしまう。
@常圧加熱乾燥法
対象:穀類、種実類などの粉末状のもの、比較的水分量の少ない食品に用いられる。
A常圧加熱乾燥助剤添加法
対象:粘質状、液状、ペースト状などの食品に用いられる。
※乾燥助剤は、水分含量が高いことに加えて、糖類などの含量も比較的高い試料の表面積を広げ、効率的に乾燥させるために加えられる。
2)減圧加熱乾燥法
乾燥器内を一般に1〜10 kPaの減圧度にすることで、水分を蒸発させる方法であり、乾燥温度が100 ℃以下でも水を除去できる。
一般的に対流による加熱はごく小さくなり、壁からの伝導熱が主体となるため、乾燥器内の温度分布が不均一になりやすい。そのため、壁に近い部分を避け、中央付近を使用することが望ましい。
常圧加熱乾燥法に比べて加熱温度を低く設定することが可能であり、同時に空気を除去することにより、加熱乾燥中の試料の酸化による重量変化を最小限に抑制できる。しかしながら、一般に乾燥時間が長く、操作もいくらか煩雑であるので減圧加熱乾燥法と同一分析値が得られる常圧加熱乾燥法の条件が定められた食品にあっては、必ずしも減圧加熱乾燥法を適用しなくてもよい場合もある。
@減圧加熱乾燥法
対象:粉末スープ、クッキーなどの加熱によって変化しやすい食品に用いられる。
A減圧加熱乾燥助剤添加法
対象:
野菜類、果実類、魚介類など比較的水分の多い食品や粘質状、液状、ペースト状などの食品のうち、加熱によって変化しやすい食品に用いられる。
加熱乾燥法では、上記の方法について、温度及び時間がさまざま設定されているため代表例を表-1に示す。
表-1 栄養表示基準における水分条件例
食品群 |
加熱条件 |
乾燥温度(℃) |
乾燥時間(hr) |
穀類 |
常圧 |
135 |
3 |
いも類 |
常圧 |
100 |
5 |
大豆 |
常圧 |
130 |
3 |
みそ |
減圧 |
70 |
5 |
魚介類 |
常圧 |
105 |
5 |
肉類 |
常圧 |
135 |
2 |
野菜 |
減圧 |
70 |
5 |
果実 |
減圧 |
70 |
5 |
2.カール・フィッシャー法
メタノールなどの低級アルコール及びピリジンなどの有機塩基の存在下で、水がヨウ素及び二酸化硫黄と定量的に反応することを利用して水分を分析する方法である。
食品に水以外の揮発成分を多く含有する場合、乾燥法と違って水だけを定量できる利点がある。食品において、油脂や砂糖など均一な試料では、試料量が少量で分析可能であるが、不均質で水分の多い食品や溶解できない食品には適用できない。また、試薬と反応する試料にも適用できない。
対象:砂糖類、油脂類、みそ類、乾燥卵、香辛料類に用いられる。
水分の分析方法は、天秤、恒温乾燥器及びデシケーターがあれば誰もが簡単に分析可能な項目であるが、前処理(粉砕)、加熱条件、乾燥温度及び時間とさまざまな組み合わせがあり、条件選定には経験が必要である。
また、試料を均一に調製する際には注意が必要である。調製した試料は、その食品全体の代表でなければならず、粉砕による吸湿も水分に影響するからである。
試料を保存した容器の蓋を長時間開けたまま放置したり、試料採取のために時間をかけ過ぎないことも必要である。また、保管室内の温湿度などの保存環境にも十分に注意を払うべきである。
さらに、水分以外の揮発成分であるアルコール類、酢酸などの揮発酸、香辛料中の香気成分は加熱によって蒸発してしまい水分として測り込まれてしまうため、適切な検査方法を選択し、場合によっては、各成分を個々に分析して考慮した後、水分を算出する必要がある。
近年、特に健康食品について注意が必要である。健康食品には、食品添加物や機能性成分を高濃度に含有させた食品が多く、適切な検査方法を選定できなければ水分を過大または過小評価してしまう。そのため、検査方法の選定には原材料の情報が不可欠であり、その情報を基に適切な条件を選定できるかが問われる。