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脂質の分析方法について
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第一理化学検査室

1. はじめに

肥満、メタボリックシンドロームなどの食の欧米化に起因する生活習慣病の広がりや栄養成分表示自体の認知度の拡大に起因する消費者意識の高まりに加え、栄養成分表示の義務化による適切な食品選択の推進が世界的にも一般化していることから、日本でも2013年6月食品表示法が公布され、2015年4月施行された。この食品表示法施行に伴う大きな変更点の1つが栄養成分表示の義務化である。様々ある栄養成分の中でもたんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム(表示の際には食塩相当量として記載)の4成分並びに、たんぱく質、脂質及び炭水化物から計算される熱量が義務表示項目として指定された。
 義務表示項目の中でも脂質は食品をおいしくしたり、食べやすくしたりするなどの役割を担っている。しかしその一方で、脂質はその過剰な摂取が心疾患のリスクを高めたり、脂質異常症など生活習慣病を引き起こす可能性がある栄養成分として一般消費者にも広く認知されていることから、一般消費者の関心も非常に高い栄養成分となっている。

2. 栄養成分としての脂質の役割

食事として取り込まれた脂質の主な働きとして、まずエネルギー源となる点が挙げられる。そのエネルギー換算係数は食品表示基準では1 gあたり9 kcalとされており、たんぱく質や炭水化物(4 kcal/g)の2倍以上の値となっていることから、脂質は極めて効率の良いエネルギー源であることがわかる。
 また脂質の種類によっては細胞膜の構成成分となったり、ホルモンやビタミンDの前駆体になるなど、適度な脂質の摂取は健康な生活を営むために必要なものとなっている。
 なお、摂取の目安量や目標量については、日本人の食事摂取基準(2015年版)に性・年齢階級別に設定されているので参考にされたい。

3. 脂質の定義

脂質は、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食第139号」の「別添 栄養成分等の分析方法等」(以下、食品表示基準における分析方法)では、「ジエチルエーテル、石油エーテル等の溶剤に可溶な成分の総量」と定義されている。この脂質の定義の特徴として、「溶剤に可溶な成分の総量」という点が挙げられる。すなわち測定対象が生化学的な油脂のみではなく、溶剤に溶ける成分全てとなっていることに留意されたい。
 さらに、食品表示基準における分析方法には「脂溶性ビタミン、カロテノイド等も脂質として定量される。通常の食品においては、脂溶性ビタミン、カロテノイド等の含量は、脂質含量と比較してごくわずかであるため、脂質に含めて定量を行う。ただし、脂溶性ビタミン、カロテノイド等を多量に含む錠剤・カプセル等のサプリメントや食品添加物等、その寄与が無視できない場合、脂溶性ビタミン、カロテノイド等の含量を差し引いて脂質とすることができる。」と記載されている。この脂溶性ビタミンやカロテノイドに対する言及は食品表示基準における分析方法の施行前に運用されていた「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」(平成11年4月26日 衛新第13号)には見られなかった記述である。

4. 脂質の分析方法

脂質の分析方法の概要は、食品試料を採取し、その食品試料の特性に応じた適切な処理を実施した後に、有機溶剤を用いて脂質を抽出し、回収した抽出物の重量を測定することである。食品表示基準における分析方法では、エーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法及びレーゼゴットリーブ法の5種類が定められているが、これらの分析方法を食品試料の種類や特性に応じて適切に選択する必要がある。その分析方法と対象食品(代表例)を表1に示す。

表1. 分析方法と対象食品(代表例)

分析方法 対象食品(代表例)
エーテル抽出法 一般食品、脂質含量の高い食品
クロロホルム・メタノール混液抽出法 大豆、卵類などリン脂質を多く含む食品
ゲルベル法 牛乳、脱脂乳、加工乳
酸分解法 穀類、野菜類、調理加工食品など
レーゼゴットリーブ法 牛乳及び乳製品、乳脂肪を含む食品など

分析方法と対象食品の不一致など不適切な分析方法の選択は脂質の抽出不足や食品中の夾雑物の測り込みなど脂質の過小または過大評価に繋がる恐れがあるので注意が必要である。ここで、表1に記載した5種類の分析方法について概要を以下に示す。

(1)エーテル抽出法

一般食品、特に比較的脂質含量が高く、組織成分と結合している脂質が少なく、かつ乾燥時粉末又は容易に粉砕し得る状態にある食品に適用される分析方法である。

(2)クロロホルム・メタノール混液抽出法

本法は組織へのメタノールの浸透性の高さとクロロホルムへの溶解性の高さを利用した分析方法となっており、大豆及び大豆製品(みそ類、納豆類は除く)、卵類のようにリン脂質等の極性脂質を多く含む食品に適用される分析方法である。

(3)ゲルベル法

牛乳、脱脂乳及び加工乳等及び乳製品に適用される分析方法で、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号)にも規定されている分析方法である。

(4)酸分解法

組織成分と強固に結合又は包含されている脂質を塩酸による酸加水分解により、溶液中に遊離・分散させ、脂質を抽出する方法として、穀類や野菜類、調理加工食品など多くの食品群に適用される分析方法である。脂質含量が少ない食品は脂質が組織中に包合されている場合が多く、本法の適用が適当である。

(5)レーゼゴットリーブ法

主として牛乳及び乳製品や乳脂肪を含む食品及び比較的脂質含量の高い液状又は乳状の食品にも適用され、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号)にも規定されている分析方法である。

5. まとめ

脂質とは食品表示基準における分析方法ではジエチルエーテル、石油エーテル等の溶剤に可溶な成分として定義され、その分析方法として、5種類が規定されている。これらの分析方法を食品表示基準における分析方法に沿って、正確に実施する技術力、そして適切な分析方法を選択する判断力が分析技術者・分析機関の力量となる。
 実際に、食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドラインには「分析機関が正しい分析結果を提出するためには、妥当性が確認された分析法により、適切に管理された標準品、試薬、機器、器具を用い、適切なトレーニングを受け、スキルのある分析者が試験を実施する必要がある。加えて、その試験機関内での精度管理がなされると共に技能試験等の外部精度管理においても、適切な結果が維持され、その状態を定期的な内部・外部監査等によって評価されることが望ましい。これらについて国際的な規格としてISO/IEC 17025(JIS Q17025)試験所認定があるので、その認定を受けた試験機関又は健康増進法に基づく登録試験機関などは要件を満たすと考えられる。」と記載されていることから、外部機関に分析を委託する際は、これらの要件を満たした分析機関を利用されることが望ましい。
 また、食品表示基準における分析方法の通則には「試験の本質に影響のない限り、試験法の細部については変更することができる(規定の方法として各章に示された操作にて、測定成分の抽出、妨害成分との分離、試験菌株の成育等に不具合が生じる場合等は、試験の本質に影響のない範囲内で、試験法の細部を変更することができる。)。」とされている。
 このように脂質の分析には、食品表示基準における分析方法を正確に実施する技術力、食品試料に応じた適切な分析方法を選択する判断力、機器・試薬を管理する管理体制に加えて、分析の各工程における試験品の状態・様子をよく観察する力、異常を察知する洞察力、さらには食品に対する科学的な知識など総合的な力が必要である。

参考文献

消費者庁食品表示課 脂質と脂肪酸のはなし 平成22年9月
厚生労働省 日本人の食事摂取基準 2015年版
中央法規出版 早わかり栄養成分表示Q&A
建帛社 日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル・解説
消費者庁 食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)
消費者庁 食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン(第1版 平成27年3月)

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