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糖質と食物繊維について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第一理化学検査室

1.はじめに

炭水化物は、三大栄養素の1つであり、食物として体内に取り入れられエネルギー源となる「糖質」と、体内の消化酵素では消化できない「食物繊維」からなる。近年、米などの主食を制限する「糖質制限ダイエット」が話題となり、さらには「糖質カット」、「糖質オフ」、「低糖質」というような表記をされた食品を多く見かけるようになった。「平成30年度食品表示に関する消費者意向調査報告書」(消費者庁)では、義務表示を希望する栄養成分名で「脂質」に続き、「糖質」は2番目に多く、関心のある栄養成分であることがわかる。また、「食物繊維たっぷり」や「食物繊維含有」というような表記をされた食品も多く見かけるようになり、食物繊維が注目されている。本稿では、近年注目されており関心の高い栄養成分である「糖質」と「食物繊維」について紹介する。

2.糖質とは

炭水化物は、食品表示基準では当該食品の質量から、たんぱく質、脂質、灰分及び水分量を除いて算出される。

炭水化物 = 当該食品の質量 - (たんぱく質 + 脂質 + 灰分 + 水分)


糖質は、食品表示基準では当該食品の質量から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分量を除いて算出される。つまり、炭水化物から食物繊維を除いたものである。

糖質 = 炭水化物 - 食物繊維


糖質には、ブドウ糖、果糖などの単糖類、ショ糖や乳糖の二糖類、オリゴ糖、デキストリン、でんぷんなどの多糖類、還元麦芽糖水あめ、エリスリトール、マルチトールなどの糖アルコールが含まれる。

糖質 = 糖類(単糖類,二糖類) + 多糖類 + 糖アルコール


糖質は、米飯、パン、麺などの主食、芋、果物、砂糖などに多く含まれ、体内で消化吸収され、エネルギー源となる栄養素である。不足すると体力の低下や疲労感がみられ、過剰な摂取は肥満や生活習慣病の原因となる可能性がある。そのため、適切に摂取することが必要である。

3.食物繊維とは

糖質は炭水化物から食物繊維を除いたものと定義されており、食物繊維は糖質と非常に関係の深い栄養成分である。なお、糖質を表示する場合には食物繊維とともに表示しなければならない。食品表示基準では、食物繊維は、熱安定α-アミラーゼ、プロテアーゼ及びアミログルコシダーゼによる一連の処理によって分解されない多糖類及びリグニンと定義されており、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2つに分類できる。食物繊維は、穀物、芋、豆、野菜、果物、きのこ、海藻などに含まれ、整腸作用や生活習慣病の予防にも効果が期待されており、食品表示基準の義務表示項目ではないが、積極的に表示を推進するように努めなければならない推奨表示項目の栄養成分である。通常の食生活において、食物繊維の過剰摂取の心配はなく、むしろ努力しないと不足しがちになる。日本人の食事摂取基準(2015年版)では、生活習慣病の予防を目的に現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量として「目標量」が設定されており、食物繊維の目標量は1日あたり、18~69歳の男性で20 g以上、女性で18 g以上となっている。しかし、平成29年 国民健康・栄養調査(厚生労働省)では、20歳以上の食物繊維摂取量は、男性で15.2 g、女性で14.8 gであり、目標量に対し男性では約5 g、女性では約3 g不足しているという結果であった。

4.栄養成分表示

1)表示のルール

食品表示基準において、栄養成分表示をする場合に、炭水化物は必ず表示しなければならない項目の1つであるが、糖質及び糖類は任意表示項目であり、食物繊維は推奨表示項目である。糖質の表示をする際は、炭水化物の内訳として、食物繊維とともに記載しなければならない。また、糖質(単糖類、二糖類)の内訳として糖類の表示をすることができる。図1に糖質を表示する際の栄養成分表示の例を示す。

図1 糖質を表示する場合の栄養成分表示例


2)強調表示

食品表示基準では、欠乏や過剰な摂取が国民の健康の保持・増進に影響を与える栄養成分の量及び熱量について、補給や適切な摂取ができる旨の強調表示をする際の基準が定められている。糖質は、食品表示基準に定められた栄養成分ではあるが、強調表示基準は定められていない。ここでは糖質の表示に関係のある、食物繊維と糖類の強調表示について紹介する。

強調表示は補給ができる旨の表示(栄養成分の量が多いことを強調)、適切な摂取ができる旨の表示(栄養成分の量又は熱量が少ないことを強調)、添加していない旨の表示(無添加の強調)の3つに分けられる。食物繊維は補給ができる旨の表示、糖類は適切な摂取ができる旨の表示及び添加していない旨の表示に関わってくる。「食物繊維たっぷり」と表示したい場合は、高い旨の表示であるため、100 gあたり6 g(飲料では100 mlあたり3 g)以上、「食物繊維含有」と表示したい場合は、含む旨の表示であるため、100 gあたり3 g(100 mlあたり1.5 g)以上含まなければならない。「食物繊維○○%アップ」と表示したい場合は、強化された旨の表示であるため、比較対象食品に対して強化された割合が25%以上でなければならない。「糖分控えめ」と表示したい場合は、低い旨の表示であるため、100 gあたり5 g(飲料では100 mlあたり2.5 g)以下でなければならない。「糖類ゼロ」、「無糖」と表示したい場合は、含まない旨の表示であるため、100 gあたり0.5 g未満であれば表示することができる。食物繊維及び糖類の強調表示について表1にまとめる。「糖類無添加」と表示したい場合は、いかなる糖類も添加していないこと、糖類に代わる原材料または添加物を使用していないこと、当該食品の糖類含有量が原材料及び添加物に含まれていた量を超えていないこと、当該食品の100 g、100 ml、一食分などの一単位あたりの糖類を表示していることの4つの条件を満たしていなければならない。

 

表1 食物繊維及び糖類の強調表示

5.食物繊維の分析について

食品表示基準の食物繊維分析方法には、プロスキー法(酵素-重量法)と高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)が採用されており、これらの方法を合わせることにより高分子の食物繊維だけでなく、低分子の食物繊維まで定量することができる。分析フローを図2に示す。

酵素-重量法は次の通りである。試料を採取後、熱安定α-アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼによる酵素反応で、糖鎖をブドウ糖1分子にまで分解する。その後、エタノールを加え沈殿を生成させ、吸引しながらろ過をして残留物を回収する。残留物をエタノールとアセトンで洗浄し、残留物中の脂質を洗い流した後、残留物を一晩乾燥して質量を測定する。残留物中には、酵素で分解されずに残った試料由来のたんぱく質や酵素由来のたんぱく質、無機質が含まれるため、たんぱく質と灰分を定量して、残留物の質量から差し引くことで食物繊維量が算出される。

酵素-HPLC法は次の通りである。酵素-重量法で得られたろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、イオン交換樹脂により、たんぱく質、有機酸類、無機塩類を除去し、高速液体クロマトグラフィーに供する。得られたクロマトグラム上で濃度既知の内標準物質(ブドウ糖、グリセリンなど)と食物繊維画分のピーク面積の比率を求める。原則として、三糖類のマルトトリオースのピーク溶出位置を指標とし、これと同じかこれより前に溶出するものを食物繊維画分とする。総食物繊維量は、酵素-重量法と酵素-HPLC法で得られた値を合算して算出する。分析の詳細は2016年11月発行の「食物繊維について」を参照されたい。

図2 食物繊維の分析フロー


6.おわりに

糖質と食物繊維は、ヒトが健康的な食生活を実践するために、重要な役割を担っている。日頃から栄養成分表示の意味を理解し、表示でどの程度の炭水化物、糖質、食物繊維、糖類が含まれているかを把握し、適切な量を摂取することが大切である。今後も糖質制限、糖質カット、食物繊維含有などと表記された食品が市場に多く流通すると予想されるため、糖質及び食物繊維には注目していきたい。

参考文献
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット, 炭水化物/糖質
    消費者庁 平成30年度食品表示に関する消費者意向調査報告書
    厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)
    厚生労働省 平成29年 国民健康・栄養調査結果の概要
    消費者庁 食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)
    消費者庁 栄養成分表示及び栄養強調表示とは

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