食品分析における試料調製

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

検体調製室

1. はじめに

食品分析を行う場合、分析試料をそのまま使用できることは極めて稀である。多くの場合は試料調製しなければならない。この場合、最も重要なことは調製された試料が、その食品を代表しているかということである。

世の中にある食品は、多種多様であり、目的成分が偏在しているものや状態が不均一(弁当、総菜等)であることが多く、さらに物性の異なるものが混在(ごま入りドレッシング、ふりかけ等)することもある。

また、試料調製することにより、目的成分が酵素、酸素、熱や光等の影響を受け、変化してしまうこともある。

今回は食品分析を行うための試料調製について解説する。

2.縮分

試料調製を行う前には、その食品を代表するように試料採取を行う必要がある。例えば、個体差の大きい生鮮食品では、なるべく多くのサンプルを採取した方がよく、採取も恣意的判断が入らないように任意に行う必要がある。さらに一個体の中で目的成分が偏在していることもあるので、偏在を考慮して採取しなければならない。

試料調製には、なるべく多い量を調製することが求められるが、調製する量には限界があり、多くても 1 ㎏程度であるが、作業性から考えると100 g~500 gのあたりである。調製を行う試料の量が多かったり、個体が大きかったりする場合は、「縮分」という操作を採用することで調製量を少なく(小さく)することができる。試料の縮分は、それぞれに適した方法を適用する必要がある。以下に代表的な縮分方法を紹介する。

図1 箱からの任意採取

≪箱に入った多数個から任意に採取する縮分の方法≫

みかんや個包装のお菓子等で箱の中に多数個入っている場合、箱の中を均等に分かれるように想定し、その個々の空間から1個を取り出し合わせたものを代表サンプルとする。(図1)

≪穀類、豆類、種実類および紛体に用いる縮分の方法≫
・円錐四分法

サンプルを円錐状に山積みにした後、上部を平坦にし、対称の区画(AA)を採取し1/2量にする。量が多い場合は操作を繰り返し、採取量を少なくする。(図2)

図2 円錐四分法

・二分器、均分器

穀物などの縮分では均等に分けることができる「二分器」や「均分器」がある。二分器は長方形の箱の中にスリット状の小部屋が複数あり、交互に右側と左側に落ちる仕組みになっている。上部に試料を投入すると左右の受器にスリット上の小部屋から交互に入ることで半分に分けることができる。均分器は上部の円錐形ホッパーに試料を入れシャッターを開けると、細かく等分された仕切り部を通って左右の排出口から均分されて試料が出てくる。

≪野菜類、果実類などに用いる縮分の方法≫

野菜類や果実類は個体中の成分の偏在(実っている状態の上部と下部、日当たりの状態の前面と裏面)が大きいため、なるべく個体全量を調製することが望ましいが、全量を使用できない場合は、実っている状態で縦割りにしたあと複数の対角を採取する。(図3)

図3 縦割り

≪畜肉類や魚類などに使用する縮分の方法≫

畜肉類や魚類は脂身と赤身が極端に偏在しているため、できる限り全量を調製した方が代表した試料を得られるが、大きい畜肉のブロックや大型魚では全量を粉砕調製することは困難であり現実的ではない。畜肉においては一定の方向、一定の大きさでスライスし、一つおきまたは二つおきに採取することで試料を代表したことになる。魚類は一旦三枚におろし、畜肉と同様にスライスして採取するが、魚類の場合、背中側と腹側、内臓側と外側で成分が異なるので、泳いでいる状態で縦にスライスする。(図4)

図4 スライス

3.試料調製の部位

生鮮食品では調製する部位が特定される場合が多い。調製する部位は目的とする成分や食習慣によっても変わるので注意が必要である。食用にする部位は人によって異なることがあるため、食品分析では可食部という表現はあまり使われず、廃棄部位として表現されることが多い。参考までに日本食品標準成分表の廃棄部位の抜粋を示す。(表1)

また、栄養成分分析と残留農薬分析では除去する部位が異なることがあるので、それぞれの目的に合った除去部位を選択する必要がある。

さらに、農産物、畜産物、水産物の部位の名称は独特なものがあるため確認して把握しておくことも必要である。

表1 日本食品標準成分表の廃棄部位例

日本食品標準成分表2015年版(七訂)より抜粋

4.試料調製の器具

試料調製は多くの場合、調製器具を使用する。調製される食品に合った調製器具を選択しないと調製がうまくいかなかったり、かえって手間がかかったりする。また、食品の特性を理解していないと調製器具を使用したことで失敗することがある。

例えば、チョコレートを高速で回転するミル等で粉砕すると回転と回転による熱とで油分が分離することがある。

また、試料調製時の汚染は調製器具によるところが多い。調製器具の表面上の汚れについては目視により確認できるが、ミルやフードプロセッサーの刃の裏側や軸部分に前に調製したサンプルの汚れが残っていると汚染の原因となる。こういった洗浄しづらい部分には超音波洗浄機を使用することで汚れを除去できる場合がある。

試料調製に使用する調製器具は汚染を防止するため、試料が接するところは容易に分解洗浄できるものを選択することも重要である。

代表的な調製器具は以前のメールマガジンで紹介しているのでそちらを参照されたい。
メールマガジンvol.133 2017年4月号参照

5.試料の前処理

試料の調製では、後の分析操作を踏まえた特別な処理を行うことがある。

試料調製は、目的成分や分析工程の知識、試料そのものの特性をふまえて行なわなければならない。一部の農薬やビタミン類は調製中に揮発、分解してしまうことがあるので、試料を大まかに裁断したのち、揮発、分解を押さえる試薬とともに粉砕し調製する。

例えば、ほうれん草でビタミンC用の試料調製を行う場合は、あらかじめ縮分や不要部位の除去を行った試料をメタリン酸(ビタミンCの分解を防ぐ試薬)溶液と共に粉砕調製する。前処理の際に粉砕前の試料重量、添加するメタリン酸溶液重量を測定しておくことで、あとから試料採取量を補正できる。

6.調製試料の保存

試料調製が適切に行われたとしても保存が適切でなかったら、試料調製の苦労が台無しになってしまう。食品分析では調製された試料を適切に保存することも重要である。

試料の保存中に「吸湿してしまわないか」「乾燥してしまわないか」「変質してしまわないか」「保存容器から汚染されないか」「物性が変化してしまわないか」「腐敗してしまわないか」「保存容器から漏れたりしないか」など、気を付けなければならない事は山ほどある。調製後の試料は、試料の種類、保存容器の選択、保存中の変化を総合的に判断して保存することが求められる。

さらに忘れてはいけないことは、調製された試料の識別である。試料調製と保存が適切であっても、目の前にある調製された試料が何であるか判別できなかったら、調製していないのと同じである。調製された試料はペースト状であったり粉体であったりして、原形を留めていないことが多いため、識別されていないと、分析試料として使用できるものなのか判断できない。このようなためにも調製された試料を識別しておくことが必要である。また、識別は試料の廃棄時期も明記しておくと限りある保存場所が有効に活用される。

7.おわりに

食品分析者にとって試料調製は行わなければならない最初の工程である。この工程で、失敗してしまうと後の分析工程をいかにうまく行ったとしても、分析値は試料を代表したものでなくなってしまう。

不均一な食品では試料調製は重要な工程であることを認識しておくことが重要である。

参考文献

1)
菅原龍幸・前川昭男監修『新食品分析ハンドブック』建帛社、平成12年11月20日発行、p1-4
2)
文部科学省、『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』2015