カンピロバクター(Campylobacter)について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

微生物検査室

1.はじめに

カンピロバクター(Campylobacter)は、食中毒起因菌のひとつで、原因別の細菌性食中毒のなかでも主要な位置を占める、非常に食中毒発生率の高い細菌です。

(参考資料)
   厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会(開催日:2019年3月13日)
   配付資料
   資料1 平成30年食中毒発生状況(概要版)及び主な食中毒事案 (P19を参照)

食品安全委員会の食品健康影響評価のためのリスクプロファイル(鶏肉等におけるCampylobacter jejuni/coli )によると、カンピロバクターは、2013年現在で26菌種が報告されており、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni )とカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli )の2菌種が食中毒菌に指定されています。カンピロバクターは、主に家畜や家禽の腸管内に認められており、ヒトへの感染経路は生や加熱不十分な食肉の摂取や、これらに二次汚染された食材の摂取が考えられています。
 カンピロバクター感染に伴う主な症状は、下痢・腹痛・発熱などで、まれに敗血症やずい膜炎、神経疾患を示すギラン・バレー症候群などの合併症を起こすことも知られており、感染リスクの低減は重要な課題と言えます。

2.原因食品と食中毒予防

原因食品としては鶏料理が多く、特に鶏の刺身、タタキ、鶏レバーなど生や加熱不十分な状態で食べる料理が多数を占めます。新鮮な鶏肉イコール生食用ではありません。また、生肉から野菜など別の食品への二次汚染、バーベキューや焼き肉による事例もあります。
 カンピロバクターは、比較的熱に弱く、食肉であれば、中心部の温度が75℃以上、1分間以上の加熱で死滅します。肉類やそれらに二次汚染された食材を十分に加熱して摂取することが、カンピロバクターのみならず、サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌などを起因とする食中毒を防止する上で有効です。また、カンピロバクターは、乾燥や食塩に弱い細菌ですが、微好気条件では4℃以下で長期間安定して生存するため、冷蔵庫の過信は禁物です。

3.検査方法

食材25g(25mL)をプレストン培地などの増菌用培地で前増菌させた後、mCCDA培地やスキロー寒天培地など、2種類の選択分離培地に画線塗抹し、カンピロバクター属菌が疑われる集落の発育を観察します。カンピロバクター属菌は、微好気性の細菌であるため、培養は微好気の状態(酸素5~10%、二酸化炭素3~5%程度の条件下の発育が良いとされている)で行います。疑わしい集落が確認されたら、5個程度の集落を釣菌して鑑別試験を行います。非選択性培地に継代したのち、グラム染色やカタラーゼ試験、オキシダーゼ試験などのテストを行った後、結果判定となります。

4.おわりに

カンピロバクター食中毒は、わずかな菌数(数百個程度)が口に入っても発症する可能性があり、食中毒の症状としては比較的軽症で経過する場合が多いとされてはいますが、十分な注意を払うべき食中毒原因菌です。
 食中毒起因菌の性質を正しく知ることで食中毒予防につながり、食の安心と安全がより一層広がっていくことを切に願っています。

参考文献

1)
食品衛生検査指針 微生物編 改訂第2版2018、公益社団法人日本食品衛生協会
2)
食品微生物Ⅰ基礎編 食品微生物の科学、清水潮 著、株式会社幸書房
3)
食品微生物学辞典、日本食品微生物学会監修、中央法規出版株式会社
4)
厚生労働省:カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html
5)
食品安全委員会:ファクトシート(カンピロバクター)
https://www.fsc.go.jp/factsheets/
6)
食品安全委員会:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル(鶏肉等におけるCampylobacter jejuni/coli
http://www.fsc.go.jp/risk_profile/
7)
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会(開催日:2019年3月13日)
配付資料
資料1 平成30年食中毒発生状況(概要版)及び主な食中毒事案
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000488491.pdf