食品衛生法等の改正に関する状況と食品事業者における取組み注意点

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

コンサルティング室

はじめに

近年の食品業界を取巻く情勢はめまぐるしい変化を続けている。2018年にHACCP※ による衛生管理の制度化を含む食品衛生法等が改正されて以降、関連する検討会が頻繁に開催され、様々な情報が公開されている。公開された情報を注視する事業者が多い一方、情報を確認できていない事業者も少なからず存在する。
 このことから、本稿では、食品衛生法等の改正に関する状況として、2019年3月時点で公開されている情報について紹介する。
 また、公開されている情報の一つとして、食品関係団体が作成した業種別手引書が挙げられる。特に自組織で手順書などを作成することが大きな負担となる事業者を中心に、手引書は非常に有用なものと考えられる。しかし、事業者が手引書を使用する際には注意すべき点が存在する。本稿では、この注意すべき点についても紹介する。

※ HACCP (Hazard Analysis and Critical Control Point):
食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする手法1)

食品衛生法等の改正に関する状況

パブリックコメント制度により以下の2件のとりまとめ案に関する意見募集が2019年3月7日より開始された(2019年4月5日締切)。今後、意見募集の結果を受けて、政省令公布などに進む予定とされている。

・食品の営業規制に関する検討会とりまとめ案(政省令関係事項)
・食品衛生管理に関する技術検討会政省令に規定する事項の検討結果とりまとめ案

その他、食品衛生管理に関する技術検討会や食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関する技術検討会が開催されている。特に食品衛生管理に関する技術検討会においては、上述の食品関係団体が作成した業種別手引書についてこれまで検討が行われている。事業者は関係する業種別手引書を確認することが推奨される。

・食品衛生管理に関する技術検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610.html
・食品用器具及び容器包装の規制の在り方に関する技術検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_479899.html
・食品等事業者団体が作成した業種別手引書
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00001.html

なお、本稿を掲載したメールマガジン配信の時点では状況が更に変化していると考えられるため、厚生労働省ホームページなどにて最新の情報を確認されることをお薦めする。

事業者が手引書を利用する際に注意すべき点

上述の通り、衛生管理のためのルールを記した手順書などの文書を作成することは大きな負担となり、事業者の規模などによっては文書の作成が困難な場合がある。特にそのような事業者を中心に、手引書を使用することによって効率的にHACCPに取組むことができる。
 しかし、取組む際には以下の点について注意すべきと考えられる。

事業者が手引書を利用する際に主に注意すべき点
①手引書に合致しない部分・記載されていない部分への対応
②関係者の認識強化のための教育

なお、これらの説明にあたり、HACCPを構成要素として含む食品安全マネジメントシステムであり、2018年に大幅に改定されたISO22000:2018の要求事項が参考として分かり易いと考えられるため、これを引用して説明する。

 ① 手引書に合致しない部分・記載されていない部分への対応

ISO22000:2018においては、自組織以外で作成された手引書などの使用は認められている(7.1.5 外部で開発された食品安全マネジメントシステムの要素)。一方で、使用する場合は、実際の現場や製造する製品などと手引書が乖離していないことが要求される。
 HACCPの取組みにおいても同様に、事業者は参考とする手引書を自組織の実態に照らし合わせることが必要と考えられる。そして、合致しない部分があれば、その部分に対して自組織で対応することが必要である。
 例えば、手引書には金属探知機の設置がある場合と設置がない場合の管理策をそれぞれ記載しているものがある。金属探知機を使用していない事業者は、使用設備の点検など、金属探知機以外の対策をまずは検討し、自組織にとって実施可能で必要な対策を行うことが必要である。
 また、手引書には再利用(Rework)について記載されていないものが多い。原材料や中間製品などを再利用する場合は問題のない条件下で使用することが必須である。しかし、対象や環境などによってこの条件は異なるため、事業者が条件について検討することが必要となる。
 これらのように、事業者は手引書と合致しない部分や記載されていない自組織独自の部分については事業者の対応が必要となる。

② 関係者の認識強化のための教育

ISO22000:2018では、関係する人々の認識を要求する項目がある(7.3 認識)。 食品の製造や取扱などに関係する人々が、自身の活動が食品安全に果たす役割とその重要性を理解することや、食品安全の取決めなどが守られなかった時の結果を認識することなどが求められている。
 例えば、手引書には記録の取り易さに配慮されたチェック表などが添付されており、これまでチェック表などを活用していなかった事業者などに利用が望まれる。しかし、チェックを行う目的などを担当者に説明せずに記録を取ることだけが優先された場合、本来の実施すべきチェックが行われず事業者の食品安全が担保できないものとなる危険がある。
 このような事態とならないよう、事業者は手引書などを用いて関係する人々が自組織の食品安全において適切な認識を持つための教育を実施することも必要である。

おわりに

国を挙げたHACCPの取組みは公布からまもなく一年が経過し、今後さらに加速していくものと考える。その中で、食品事業者が効率的かつ効果的に取組まれることを切に願う。

参考文献

1)
厚生労働省ホームページ 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146747.html