高温細菌について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

微生物検査室

1.はじめに

細菌の増殖できる温度帯は様々であり、食品に関係する細菌をみても、種類によって大きな差がある。そのため、細菌の増殖温度域により、低温細菌、中温細菌、高温細菌と区分されることがある。一般に、25~40℃に至適増殖温度がある細菌を中温細菌、0℃以下の温度で増殖できる細菌を低温細菌、55℃以上の温度で増殖できる細菌を高温細菌とする。

今回は、加温式自動販売機(ホットベンダー)で販売されるコーヒー、スープなどの缶入り飲料、温蔵庫や保温ジャーなどで保温される食品で食品劣化の原因となる高温細菌について紹介する。

2.高温細菌とは

高温細菌は、一般的に55℃以上の温度で増殖する細菌を指す。表1に、主な高温細菌の増殖温度範囲を示す。高温細菌は常温では増殖しないので、普段は問題となることは少ないが、ホットベンダーによる50~60℃で加温販売されるコーヒー缶詰やしるこ缶詰などで問題となった事例がある。

表1 主な高温細菌の増殖温度範囲

菌種 最低 至適 最高
Bacillus coagulans 30℃ 40~57℃ 61℃
Clostridium thermosaccharolyticum 30℃ 57℃ 62℃
Lactobacillus thermophilus 30℃ 50~63℃ 65℃
Desulfotomaculum nigrificans 30℃ 55℃ 68℃
Geobacillus stearothermophilus 30℃ - 72℃
Thermus thermophilis 50℃ - 85℃

食品衛生法における清涼飲料水の製造基準を表2に示す。加熱殺菌条件は大きくpHによって区分されている。微生物の中にはこのような条件でも死滅しない細菌も存在し、Geobacillus stearothermophilusや、Clostridium thermoaceticumのように極めて耐熱性の強いものも知られている。缶詰の変敗原因の多くは殺菌不足か、密封不良による殺菌後の二次汚染によるものである。

変敗事例として、Clostridium thermosaccharolyticumは好熱性嫌気性変敗を起こし、CO2、H2ガスにより容器を膨張させる。Desulfotomaculum nigrificansは硫化変敗を起こし、容器の膨張はないが、内容物を変敗させ硫化水素臭、黒変を引き起こす。Geobacillus stearothermophilus は容器の膨張はないが、内容物を酸敗させるフラットサワー変敗を起こすことが知られている。

表2 清涼飲料水注1)の製造基準

① pH4.0未満 中心部の温度を65℃で10分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法で行う。

② pH4.0以上
(pH4.6以上で水分活性が0.94を超えるものを除く。)

中心部の温度を85℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法で行う。

③ pH4.6以上で、水分活性が0.94を超えるもの

原材料等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を死滅させるのに十分な効力を有する方法又は②に定める方法で行う。

注1) ミネラルウォーター類、冷凍果実飲料(果実の搾汁又は果実の搾汁を濃縮したものを冷凍したものであって、原料用果汁以外のものをいう。)及び原料用果汁以外の清涼飲料水

3.高温細菌の検査法

公定法で定められた検査法はないが、一般細菌数の検査同様に試料原液および10倍段階希釈溶液を調製し、標準寒天培地にて混釈後、55℃、48~72時間培養する。培養後、出現したコロニーを数え、希釈倍率を換算して1gあたりの菌数を算出する。使用培地について、ブドウ糖トリプトン寒天培地など高温細菌の検出を目的に組成されたものもある。

また、検出感度を上げる為に、適当量を採取して希釈した後、メンブランフィルター(孔径0.45μm)にてろ過し、フィルターを寒天培地上に貼り付け培養する方法もある。

4.まとめ

高温細菌には耐熱性の強いものが存在し、これを殺菌するためには過酷な殺菌条件(温度、時間)が必要になるが、食用や飲用に耐える品質を維持できない場合がある。そのため、加熱殺菌と他の手法(保存料の使用や紫外線殺菌)の併用効果を検討し、高温細菌の増殖を防止することがある。

食品の微生物汚染の程度を示す指標として細菌数検査を用いることが多いが、これは一定条件下で発育する中温性好気性菌数を対象とする。Geobacillus stearothermophilusや、Bacillus coagulansなどのいわゆる高温細菌は、常温では発育できないので、例えば、ホットベンダーでの販売を想定する商品では、細菌数検査と併せて高温細菌を検査することが必要となる。このように、微生物の検査では、その食品が流通時に置かれている温度帯などを考慮して検査することが、重要になってくる。

参考文献

1)
食品衛生検査指針 微生物編 改訂第2版2018、公益社団法人日本食品衛生協会
2)
食品微生物Ⅰ基礎編 食品微生物の科学、清水潮 著、株式会社幸書房
3)
食品微生物Ⅱ制御編 食品の保全と微生物、藤井建夫 編著、株式会社幸書房
4)
食品の腐敗と微生物、藤井建夫 編著、株式会社幸書房
5)
食品のストレス環境と微生物、伊藤武 森地敏樹 編集委員、株式会社サイエンスフォーラム
6)
Bergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.3 2nd Edition