ヒスタミンについて

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第三理化学検査室

1)はじめに

ヒスタミンは、主に赤身魚を取り扱う際に、室温で保管する・加工する等、不適切な管理を行った結果、細菌により生成される、アレルギー様の食中毒の原因物質として知られている。

日本国内では食品中のヒスタミン濃度の基準は設定されていないが、海外ではコーデックス規格において遊離ヒスチジン含量が高い魚種の缶詰等に対してヒスタミン濃度の基準が設定されている他、欧州、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国においても魚類やその加工品中のヒスタミン濃度の基準が設定されている1)

また、国内ではヒスタミンによる食中毒が年間数件から数十件発生し、その患者数は数十人から数百人に及ぶ2)

本稿では、ヒスタミンの特徴や検査方法について紹介する。

2)ヒスタミンとは

ヒスタミンは、アミノ酸の一種である「ヒスチジン」の誘導体(分子構造の一部が変化してできる化合物)である。マグロ類、サバ類やカツオ類等の赤身魚には、遊離のヒスチジンが多く含まれている。これらの魚を加工や流通する際に、加工に時間がかかる、保管温度が高い等の不適切な状態で管理された場合に、ヒスタミン生成菌が増殖し、遊離のヒスチジンからヒスタミンが生成される。ヒスタミンの生成機構を図1に示す。

図1 ヒスタミンの生成機構

ヒスタミンは、熱に安定な性質をもち、一度生成されると加熱加工(焼く、揚げる等)を行った食品にも残留し、食中毒を発生させる。そのため、加工中で除去することが難しく、ヒスタミンを生成させないことが最も重要な対策となる。

ヒスタミン食中毒は、重症になることは少ないとされているが、主な症状として口の周りや耳たぶの紅潮や、頭痛、じんましん、発熱がある。また、食品中のヒスタミン濃度が5 mg/100gを超えると、感受性によっては食中毒を引き起こす可能性があると推定されている3)

3)検査方法

ヒスタミンの検査方法として、日本における公定分析法は示されていない。公定分析法に準じた分析方法としては、食品衛生検査指針 理化学編4)の他、衛生試験法・注解5)に掲載されている「不揮発性腐敗アミン」の分析法に示されている。

また、ヒスタミン含量を簡便に検査するキットも販売されている。

不揮発性腐敗アミンの分析法の一つである「高速液体クロマトグラム法」の操作フローとヒスタミンのクロマトグラムの例を図2及び3に示す。

図2 不揮発性腐敗アミン分析法の操作フロー

図3 ヒスタミンのクロマトグラム例

公定分析法が無いヒスタミンの分析において、自社で実施される分析結果を客観的に評価することが重要である。有効な評価方法としては、添加回収試験の実施といった内部精度管理の実施の他、技能試験への参加も有効な手段である。

今年度には、公益財団法人 日本食品衛生協会より「新規技能試験プログラムの開発及び統計学的評価に関する研究」において「ヒスタミン分析技能試験のパイロットスタディ」が実施される。

厚生労働科学研究で実施するヒスタミン分析技能試験のパイロットスタディ(公益財団法人 日本食品衛生協会)

http://www.n-shokuei.jp/houjin/laboratory/ginouhikaku/histamine_bunseki.html

無料で参加できるプログラムであり、このような技能試験を有効に利用していくことも自社分析の能力を確認する上で有効である。

4)おわりに

ヒスタミン食中毒は、鮮魚、主に赤身魚を原因とする発生が非常に多く、水揚げから流通までの間や、その後の保管、加工工程において、衛生管理を徹底することが最も重要である。

家庭においても、ヒスタミンは加熱されても減らないことを十分認識し、低温保管の徹底と早めに摂食することがヒスタミン食中毒の重要な予防法となる。また、鮮度が低下した恐れのある魚は食べずに処分することも重要である。

参考文献

1)
内閣府食品安全委員会ファクトシート(ヒスタミン)
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/140326_histamine.pdf
2)
消費者庁ホームページ ヒスタミン食中毒
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/topics/topics_003/
3)
登田美桜, 山本 都, 畝山智香子, 森川 馨.国内外におけるヒスタミン食中毒.国立医薬品食品衛生研究所報告127,31-38(2009)
4)
食品衛生検査指針 理化学編 2015、公益社団法人日本食品衛生協会
5)
衛生試験法・注解 2015、公益社団法人日本薬学会編