HPLCで使用するカラムの紹介~PFPカラム~

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第二理化学検査室

はじめに

残留農薬を試験するにあたり、多くの物質において、液体クロマトグラフ(LC)を使用する。厚生労働省HPに掲載されている“食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法”には、一部の個別試験法を除いて、LCで使用するカラムとしてオクタデシルシリル化シリカゲルカラム(C18カラム)が採用されている。C18カラムの保持が弱い物質に対しては誘導体化反応やイオンペア条件により間接的にC18カラムに保持させる条件もあるが、これらの物質はHILIC条件による測定により、より高感度に測定できる場合がある。特にイオンペア条件は、カラムや質量分析計への負担も大きく、当財団においてもHILIC条件の導入を進めてきた。他にも、メーカー違い、ポリマーベースカラムやエンドキャップの仕様などに由来する性能差を利用して、物質ごとに特定のC18カラムを使用するようになった。LC条件を複数持つことで妨害ピーク等の回避能力は高まったが、カラムの付け替え頻度は多くなった。現在では、多くの物質は汎用C18カラムで夜間測定し、日中に別のC18カラムやHILICカラムに付け替えて測定している。こうした状況において、重宝するようになってきたカラムにペンタフルオロフェニルカラム(PFPカラム)がある。PFPカラムは、塩基性化合物の保持が強く、高極性化合物も保持できうる上、逆相系でも使用できる。これにより、日中に都度カラムを付け替えていた極性の高い物質と、C18カラムで測定する物質をPFPカラムのみで夜間に纏めて測定できる可能性が見られた。本稿では、このように試験性能にも作業効率にも寄与しているPFPカラムについて紹介する。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/zanryu3/siken.html

C18カラムとPFPカラムの比較

いくつかの物質の標準溶液をC18カラムとPFPカラムを用いてLC-MS/MSで測定した結果を紹介する。C18カラム、PFPカラムともに、サイズは2.1 x 100 mm (粒子径3 μm)であり、エンドキャップ処理されたものを使用した(同一メーカー品、ただし、PFPカラムはメタルフリーのものを使用)。カラム温度は40℃であり、MS部ではESI法によりイオン化した。他条件については、クロマトグラム内に記載した。

まず、逆相系における使用では、同じグラジエント条件でPFPカラムは概ねC18カラムと同等の保持力を発揮した。図1にアフラトキシン類の測定例を示す。

図1 アフラトキシン類の測定例(グラジエント条件は両カラムとも同じ)

また、物質によっては溶出する順番がC18カラムとPFPカラムで逆転することがある。図2にトリアゾール類(ヘキサコナゾールとテブコナゾール)の測定例を示す。C18カラムではテブコナゾールが先に溶出し、PFPカラムではヘキサコナゾールが先に溶出した。

両カラムとも保持力が概ね同等であるので、C18カラムとグラジエント条件を変更せずにPFPカラムを使用することが可能であり、代替カラムとして使用できうるし、また妨害ピークの回避等の可能性を見込むこともできる。

図2 トリアゾール類の測定例(グラジエント条件は両カラムとも同じ)

実際に妨害ピークを回避できた事例を図3に示す。C18カラムではヒメキサゾールが妨害ピークの間に埋もれてしまっているが、PFPカラムでは完全とは言わないまでもピークは分離しており、十分定性できるクロマトグラムであった。

図3 ヒメキサゾールの測定例(上段はブランク試料、下段は添加試料。左側がC18カラム、右側がPFPカラム。矢印がヒメキサゾールのピーク。LC条件は当財団の手順書による。)

次に塩基性の高極性化合物であるカスガマイシン、クロルメコート、メピコートに対する保持挙動を紹介する。逆相条件の測定例を図4に示す。C18カラムでは、カスガマイシンと他2物質とがかろうじて分離はしているものの、保持時間は非常に短く、実用に向かないが、PFPカラムでは3成分とも分離しており、クロルメコートとメピコートはよく保持していることがわかる。

図4 逆相条件における塩基性の高極性化合物の測定例
(グラジエント条件は両カラムとも同じ)

逆逆相条件の例を図5に示す(ここでは、アセトニトリル比率を下げていくグラジエント条件を逆逆相条件とした)。C18カラムも保持したもののピーク形状は悪い。確認出来てはいないが、オクタデシルシリル基が疎水性であることから考えてもマトリクスに耐えるような頑健な保持であるとは考えにくい。逆相条件より感度が向上したのは、移動相中のアセトニトリル比率が非常に高い状況でMSへと導入されたためと考えられる。一方PFPカラムでは、逆相条件では保持の弱いカスガマイシンも十分に保持し、感度も2倍程度に向上した

図5 逆逆相条件における塩基性の高極性化合物の測定例
(グラジエント条件は両カラムとも同じ)

以上のように、PFPカラムは逆相及び逆逆相条件の両方で様々な化合物の分離が可能である。ただし、PFPカラムにもメーカー差(エンドキャップの違い等も含む)はあり、塩基性かつ疎水性の化合物は逆相でも逆逆相でもカラムに強く保持してしまうため、例に示したようなグラジエント条件では溶出しない可能性が高いので注意が必要である。

さらなるアプリケーション例やPFPカラムの保持機構等については、PFPカラムの取り扱いのあるメーカーに多くの資料があるので、是非これを参照されたい。

おわりに

LCによる測定においてHILIC条件が多く用いられるようになってきたのは最近のことであり、この他にもグラファイトカーボンを充填したカラムなど、従来無かった新しい分離機構を利用したカラムが出現してきている。また、従来からある逆相系でも、カラム作製技術の向上でこれまで以上の性能を有したC18カラムの出現やC30やシアノプロピル基、フェニル基などといったC18以外の官能基の種類も豊富にある。数多くあるカラムを全て試すことは現実的ではないが、C18カラムの逆逆相条件でクロルメコート等が保持したように、思いがけない保持挙動を示すことがあるので、アプリケーション例や“思い込み”にとらわれずに、実際に測定してみることをおすすめしたい。