食品における化学的危害要因

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

FQS(Food Quality Solution)室

はじめに

2018年6月に食品衛生法が改正され、2021年6月1日から食品工場や飲食店などにHACCP(ハサップ)が義務化されました。HACCPは原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。

危害要因は、生物的危害要因、物理的危害要因、化学的危害要因の3つに分類され、化学的危害要因となる物質(以下、「化学的危害要因物質」という。)の代表例として、カビ毒、魚介毒、植物毒、洗浄剤、殺菌剤、農薬、アレルゲンなどがあげられます。このような物質は、原材料に含まれている場合と製造工場内で偶発的に混入する場合があります。食品への化学的危害要因物質の混入は、一種の異物混入であると言えます。先に示した薬剤や洗浄剤、原材料に農薬などの「化学的危害要因物質」が食品中に混入し、それを口にした人に健康被害が出てしまうことがあります。

2023年4月には、安全な食品を提供するための国際規格であるFSSC22000のVer.6が発行されました。いくつか要求事項の改定がありますが、注目すべきはアレルゲン管理の要求事項において、アレルゲン管理計画書に含めるべき事項が追加されたことです。甚大な食品事故になりかねない化学的危害要因ですが、食品を製造する際にどのような点に注意して管理していくべきか、それを防ぐための対策についてアレルゲンを中心に紹介します。

1.化学的危害要因物質について

食品に混入すると有害になる代表的な化学的危害要因物質は以下のように分類することができます。

 

化学的危害要因 危害要因となる物質 発生要因 主な管理手段
アレルゲン

特定原材料

(卵、乳、くるみ、等)

原材料に含まれる 原材料の管理、作業者の教育訓練

特定原材料に準ずるもの

(大豆、いか、いくら、等)

原材料に含まれる 原材料の管理、作業者の教育訓練
偶発的に混入する
化学物質

洗浄剤、殺菌剤
殺虫剤、殺鼠剤

不適正な使用 使用方法の遵守、作業者の教育訓練
農薬、動物用医薬品 汚染された原材料の使用 原材料の検査、使用履歴の確認
自然由来の毒素 貝毒 原材料(二枚貝)の汚染 納入者の保証書、貝の採捕海域と
年月日の確認
ふぐ毒 有毒部位の使用 ふぐ調理師免許者による調理
ソラニン

ジャガイモの発芽部位の使用

発育不良のジャガイモの使用

発芽部位除去、受入れ時確認
カビ毒 原材料の汚染 原材料の検査
ヒスタミン 赤身魚上での腐敗細菌の発育 適正な温度管理と新鮮な赤身魚の使用

 

① アレルゲン

アレルゲンとは食物アレルギーの原因となる物質です。容器包装された加工食品で表示が義務付けられている8品目は特定原材料、表示が推奨される20品目は特定原材料に準ずるものといいます。アレルゲンは原材料にも含まれている成分ですので、適切に取扱いを管理する必要があります。

 

【特定原材料】

えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生

【特定原材料に準ずるもの】

アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、 牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

 

② 偶発的に混入する物質

偶発的に食品に混入し、危害を起こし得る物質として、洗浄剤、殺菌剤、殺虫剤、殺鼠剤、農薬などがあります。

 

③ 自然由来の毒素

自然由来の毒素には動物性自然毒(貝毒、ふぐ毒)、植物性自然毒(きのこ毒、ソラニン)、カビ毒(アフラトキシン、パツリン)、有害アミン(ヒスタミン、チラミン)などがあります。これら自然由来の毒素による食中毒は、細菌性食中毒と比べると件数、患者数はそれほど多くありませんが、致命率の高いものがあります。

 

アレルゲン、自然由来の毒素、偶発的に混入する物質は、食品工場へ納入される原材料が既に汚染されている可能性があります。製造者に対する監査の実施による管理状況を把握することや重要な管理項目については、安全性を担保する品質保証証の提出を供給業者に求める必要があります。

2.食品工場におけるアレルゲンの管理方法

食品に混入させてはいけない化学的危害要因の中でも特に身近で、最も混入するリスクの高いものがアレルゲンです。食物アレルギーの症状や原因となるアレルゲンは多種多様で、人によっては急性のショック症状に陥って命に関わるケースもあります。多くの人にとってはなんでもない食べ物でもアレルギー症状を持っている人にとっては重篤な症状を引き起こすことがあり、さらに食中毒の原因となる病原微生物などは原材料に混入しても、加熱殺菌などにより低減や除去が可能ですが、アレルゲンは製造工程で除去することは困難であることから、アレルゲンを含む原料の厳重な管理が必要です。前述の通り、2023年4月にFSSC22000 Ver.6.0が発行され、アレルゲン管理の要求事項が改定されました。FSSC22000 Ver. 6.0の要求事項は、2024年4月の審査から適用され、2025年3月31日までに移行審査を実施しなければなりません。要求事項では潜在的なアレルゲンのコンタミ(汚染)リスクをすべて抽出するためのアレルゲンリストの作成と維持、アレルゲン管理の計画はその管理の妥当性を科学的根拠に基づき明らかにすること、そのアレルゲン管理の計画は少なくとも年1回の見直しを行うこと、従業員に対して作業現場でのアレルゲンリスクに対しての管理手段について十分認識できるように教育することが求められています[1]。

食物アレルギー事故を防ぐには、他の食材にアレルゲンを混入させないかが重要になります。本稿では、アレルゲンを混入させない対策として4つのポイントを説明します。

① 正しく表示する

アレルゲン管理のポイントの1つ目は「正しく表示する」です。製品にアレルゲンが含まれている場合、その旨を正しく表示しなければなりません。そのためには、まず原材料の供給業者から規格書を入手し、そこに記載されているアレルゲンをチェックします。供給業者側でアレルゲンに変更があったにも関わらず、その情報が届かず誤表示が発生することがあります。原材料の供給業者からアレルゲン情報を定期的に確認しておくことが重要です。最終製品にアレルゲンが表示されるまでには、様々な工程や手順を経るのが一般的です。その間で、情報の連絡ミス、システムエラー、従事者の勘違いなど、様々な理由でアレルゲンの誤表示が発生するリスクがあります。必要なチェック体制や仕組を構築して管理する必要があります。

 

② 持ち込まない

アレルゲン管理のポイントの2つ目は「持ち込まない」です。この場合の持ち込まないとは、意図しないアレルゲンを含む原材料を製造現場に持ち込まないことです。食品の製造で使う原材料には様々なアレルゲンを含んだものがあり、それらが工場や倉庫に置かれています。意図しないアレルゲンを含む原材料を製造現場に持ち込まないようにしなければなりません。そのためには、原材料に含まれるアレルゲンが誰でもわかるように表示しておくことや、アレルゲンごとに置き場を分けて管理することが効果的です。

 

1)購入時

使用する原材料は、正確な原材料情報(アレルゲン、配合情報、形態、製品規格、製造工程など)を入手し評価した上で購入します。特に供給業者を変更する際には、注意が必要です。

2)受入れ時

受入れ時には必ず原材料表示を確認し、アレルゲンを含む原材料と含まない原材料を別々に受け入れるようにします。また、アレルゲンを含む原材料と含まない原材料が同じトラックで混載されて到着する場合は、輸送中に原材料同士が接触する可能性があるので注意が必要です。チャーターサービスの利用は難しいため、混載となる場合には運送会社と事前に取扱いについて交渉することが望ましいです。受入れ時に袋が破れているものは搬入しないなどの対策が大切です。

3)保管時

下図のようにアレルゲンを含む原材料は誰でもわかるように識別表示することや、アレルゲンごとに置き場を分けて管理することが効果的です。アレルゲンを含まない原材料とは物理的な距離を置くことや中身が漏れ出さないように密封して保管します。またやむをえず同じ棚で保管せざるをえない時は、アレルゲンを含む原材料を下段に置き、中身がこぼれた場合でも影響を受けにくいようにしておきます。

③ 入れない

アレルゲン管理のポイントの3つ目は「入れない」です。製造工程においてアレルゲンを入れない(混入させない)ということです。

1) 設備・器具を専用化する

アレルゲンを含む製品を製造する設備はできるだけ専用化することが望ましいです。専用化が難しい場合には、アレルゲンを含まない製品から製造することで混入リスクを少しでも下げるようにし、加えて次の製造に備えて洗浄をしっかりと行うことも重要です。

アレルゲンを含む原材料と含まない原材料で同じ器具を使用すると、アレルゲンの意図しない混入が起こる危険があります。計量スコップや容器などはアレルゲンごとに専用化しておきます。色分け管理(カラーコントロール)やラベル貼付によるアレルゲンの見える化が効果的です。

2) 製造場所を区分けする

専用の器具を使用しても、製造場所が同じであればアレルゲンの混入リスクがあります。作業エリア自体を分けると、アレルゲンの混入を防ぐことができます。作業エリアの区分が困難な場合は、製造計画の管理をより厳密に行います。アレルゲンを含まない製品から製造を行う、アレルゲンを含む製品はまとめて製造するなど、アレルゲンの混入が起きにくい製造計画を立てるようにします。

 

④ 残さない(除去する)

アレルゲン管理のポイントの4つ目は「残さない(除去する)」です。アレルゲンは基本的に清掃だけでは除去できません。同一ラインで製造する他の製品においてアレルゲンを含む原材料を使用する場合は、洗浄の徹底によりアレルゲンの残存を防止します。どのような方法で洗浄すればよいかについて十分に検討したうえで、作業手順書を作成し、従業員に周知徹底を図ります。また、アレルゲン管理では交差汚染の防止も重要になりますので、洗浄で使うブラシなどは専用化しておきます。専用化する際には、アレルゲンごとに洗浄用具の色を変えるなどの対策をとっておくと、人為的なミスが起きにくくなります。

さらに、適切な洗浄を行った上で、本当に汚れがきちんと落とせているのかどうかを専用の検査キットを用いた検査などで確認する必要があります。もし洗浄が不十分で微量でもアレルゲンを混入させてしまうと重大な事故につながりますので、定期的に検証し、残存が認められた場合には、洗浄方法の見直しが必要になります。

まとめ

化学的危害要因には人工的な物質があれば、自然由来の物質もあります。これら化学的危害要因物質による健康危害は重篤になる可能性が高く、特にアレルゲンの混入は喫食者の生命の危険まで及ぶことがあります。今回、食品安全マネジメントシステムであるFSSC22000のVer.6が発行され、国際的潮流としてアレルゲン管理が強化されました。あらためてアレルゲン管理の重要性を認識する必要があります。弊財団では、製造現場の支援、食品安全マネジメントシステムの構築・運用支援、従業員教育を通して、アレルゲンを含む危害要因の管理をお手伝いします。

参考文献

[1]
FSSC財団HP
https://www.fssc.com/schemes/fssc-22000/documents/fssc-22000-version-6/