フロニカミド試験法について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第二理化学検査室

1. はじめに

食品に残留する農薬、動物用医薬品及び飼料添加物の基準値については、食品分類ごとに残留基準が設定されている。また、基準値の設定においては、残留の規制対象として、単一成分だけでなく異性体や代謝物を含めて分析対象化合物とすることや、農産物と畜産物では代謝経路の違い等から異なる代謝物を分析対象化合物とする場合がある。そのため、適切な基準値比較を行うためには、食品分類と分析対象化合物を考慮した分析を行うことが求められる。本稿では、農産物と畜産物で異なる代謝物が分析対象となっており、令和5年に残留基準値と規制対象化合物の変更が通知された1)フロニカミドの試験法について紹介する。

2. フロニカミドとは

フロニカミドは、アブラムシ類やコナジラミ類等に有効な殺虫剤である。ピリジンカルボキサミド系というこれまでにない新たな基本骨格をもち、新規の作用機序を有することから、従来の薬剤に対し感受性の低下した害虫にも高い効果が期待される。また、害虫種に対する選択性が高く、天敵や益虫にも影響が少ないと注目されている。主な対象害虫であるアブラムシが新梢、新葉に寄生しやすいことに注目し、浸透移行性に優れた性能を期待されて開発された。2)穀類や葉物野菜をはじめとし、緑黄色野菜や果実、畜水産物と多くの食品に基準値が設定されている。

3. フロニカミド試験法

フロニカミドは農産物及びその加工品と畜水産物において、厚生労働省より通知試験法が施行されている。3)

フロニカミドの分析対象化合物とその算出方法は、以下のように定められている。

フロニカミドとは、農産物及びその加工品にあってはフロニカミド、代謝物C【N-(4-トリフルオロメチルニコチノイル)グリシン】(以下「TFNG」という。)及び代謝物E【4-トリフルオロメチルニコチン酸】(以下「TFNA」という。)をフロニカミドに換算したものの和とする。その際、フロニカミド(TFNG及びTFNAを含む。)の含量(ppm)=フロニカミド+TFNG×0.92+TFNA×1.20としてフロニカミド含量を算出する。

また、畜産物にあってはフロニカミド、代謝物D【4-トリフルオロメチルニコチンアミド】(以下「TFNA-AM」という。)及び代謝物E「TFNA」をフロニカミドに換算したものの和とする。その際、フロニカミド(TFNA及びTFNA-AMを含む。)の含量(ppm)=フロニカミド+TFNA×1.20+TFNA-AM×1.21としてフロニカミド含量を算出する。

図1. フロニカミド(左上)、TFNA(右上)、TFNG(左下)、TFNA-AM(右下)の構造式

次にフロニカミド試験法の詳細を紹介する。

農産物においては、均質化した検体を採取し、乾燥物では適宜水を加え膨潤させた後、メタノールを加え抽出を行う。抽出液の一部を分取し、溶媒除去を行った後、1%ギ酸へ溶解する。スチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラムに、得られた溶液を注入し、流出液は廃棄する。さらに、1%ギ酸及びギ酸、水及びメタノール(1:90:10)混液を順次注入し各流出液は廃棄する。その後、カラムの下部にグラファイトカーボンミニカラムを接続し、ギ酸、水及びメタノール(1:30:70)混液を注入し、溶出液を採取する。スチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラムを除去した後、グラファイトカーボンミニカラムへギ酸及びメタノール(1:99)混液を注入し、溶出液を採取し、先の溶出液と合わせる。溶媒除去した後、アセトニトリル及び水(1:9)混液に溶解し、試験溶液とする。茶では、より夾雑成分の影響を受けるため、シリカゲルを用いた順相条件にて精製し、溶出液をフロニカミド画分と代謝物画分に分けて採取し測定する。

測定は、果実及び野菜の場合には、カラムはオクタデシルシリル化シリカゲル、移動相は、アセトニトリル、酢酸及び水の混液を用いて濃度勾配を設定して測定する。種実及び茶の場合には、カラムは多孔性グラファイトカーボン、移動相は、アセトニトリル、ギ酸及び水の混液を用いて濃度勾配を設定して測定する。測定機器は、いずれも液体クロマトグラフ質量分析計にて行う。

畜産物においては、含水アセトニトリルを用いて抽出するとともに、n-ヘキサンを用いて洗浄を行う。含水アセトニトリル層を定容分取し、10%塩化ナトリウムとリン酸を加え、酢酸エチルを用いて転溶を行う。溶媒を除去した後、酢酸エチル及びn-ヘキサン混液に溶解して得られた溶液についてシリカゲルミニカラムを用いて精製を行う。溶媒除去した後、アセトニトリル及び水(1:9)混液に溶解し、試験溶液とする。

測定は果実及び野菜と同様に、液体クロマトグラフ質量分析計にて行う。

食品によっては、試料由来の妨害ピークが検出する場合や、イオン化抑制と思われる現象による回収率の低下が報告されているため、必要に応じて測定条件の変更を行う。

図2.  フロニカミドの試験法(農産物)フローチャート

 

図3.  フロニカミドの試験法(畜産物)フローチャート

4. おわりに

食品に残留する農薬、動物用医薬品及び飼料添加物は、世界情勢や毒性評価、使用実態に応じて日々基準値や分析対象化合物が更新されている。法令への適否を正しく評価するためには、分析対象化合物を正しく把握し適切に分析を行うことが求められる。

参考文献

1)
「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(令和5年2月14日付け生食発0214第1号 厚生労働大臣官房 生活衛生・食品安全審議官通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/001058199.pdf
2)
植物防疫第61巻第2号(2007年)
3)
「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」別添 (平成17年1月24日付け食安発第0124001号 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/zanryu3/siken.html