保存試験は、食品を一定の条件で保存後、検査を行うことであり、消費・賞味期限の設定では客観的な項目(指標)に基づく消費・賞味期限の設定に必須の検査である。保存試験を行うためには、下記の3つを決める必要がある。
①保存温度
②保存期間
③検査項目
①保存温度は、実際の流通や販売時の温度を想定して設定する。想定する温度の中で最もリスクが高い温度を保存温度として設定することが望ましい。場合によっては複数の温度帯で実施するのもよい。特に昨今では、地球温暖化の影響により、常温保管の食品に関する保存試験において、これまでの常識的な保存温度の設定では不十分なケースがあるので注意が必要である。
②保存期間は、設定したい期限(A)を安全係数で除した日数に相当する日を保存終了日(B)と設定する。安全係数とは、検査によって製造業者が設定した規格への適合が確認された期間(保存終了日)(B)に対して安全を考慮した設定したい期限(A)を決めるために、期間(保存終了日) (B)に乗ずる1未満の係数のことである。
安全係数は、食品の特性に応じて設定する必要がある。一般的に0.7~0.9の間で設定することが多い。安全係数を小さくすれば、安全上のリスクは低減するが、一方で食品ロスの機会が増加する。この相反する課題から、適正な安全係数の設定が必要となる。
また、検査の実施日を設定する際には、設定したい期限(A)を安全係数で除した日に相当する保存終了日(B)だけでなく保存開始日や両者の中間の日、更には(B)より長い日も併せて設定した方が、結果の推移を見ることで改善点を考察することや期限設定の延長を検討することができる。例えば、図1では(A)の8日や(B)の10日だけではなく、0日、4日、15日、20日を検査の実施日として設定することを指す。
③検査項目は、時間の経過と共に変化して品質に影響を与える可能性がある項目(指標)を選定する。これは大きく理化学試験、微生物試験、官能検査の3つに分けられる。我々の経験では、理化学試験では、水分、水分活性、pH、酸価、過酸化物価、濁度、粘度、各種ビタミン、揮発性塩基窒素量(VBN)など、微生物試験では、細菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、カビ数、酵母数など、官能検査では、色調、におい、風味、味覚などが検査項目として挙げられる。これらの全ての検査項目について検査を実施することは現実的ではないため、製造業者が取り扱う食品の特性から適切な検査項目を選択し、その規格を設定することになるが、この検査項目の選択とその規格の設定が難しく、保存試験に関して当財団に最も多くお問い合わせをいただく内容である。
客観的な検査項目の中でも理化学試験の酸価、過酸化物価や微生物試験は、食品衛生法や自治体、業界団体による規格基準が定められている食品もあるので、その規格基準を参考にして、選定した検査項目の規格を設定するのが合理的である。また、製造業者で設定した製品規格(客観的な裏付けがある規格であることが前提にはなるが)があれば、その製品規格を選定した検査項目の規格として使用することもできる。検査項目の選定や規格の設定が難しいようであれば、ぜひ当財団にご相談いただきたい。
では、保存試験による期限設定について、豆腐の事例を用いて具体的に説明する。この例では、原材料、保存温度、規格、検査項目、目標とする消費期限を図2のように設定している。今回、流通や販売時の温度のリスクを考慮して保存温度を10℃に設定し、衛生指標菌及び手指からの汚染リスクを考慮して、規格項目である一般細菌数、大腸菌群及び黄色ブドウ球菌を検査項目として選定し、かつこれらの製品規格を検査項目の規格として設定し、保存試験を実施した。図2の保存試験の結果では、保存期間7日目の結果までは各検査項目の結果が規格に適合しているので、保存期間7日に安全係数0.8を乗じて、消費期限を目標とする5日に設定することができた。このように保存試験による経時的な微生物試験の結果を科学的根拠として期限を設定できる。