食品事業者にとって、神経質にならざるを得ない問題の一つに異臭問題がある。異臭物質は、一般的に閾値(においを感じる最低濃度)が極端に低いものがあるため、微量でも異臭を引き起こすことがある。そのため、食品中に含まれる微量な異臭物質を分析することが求められ、これが異臭分析の難しさの一因となっている。
本稿では微量な異臭物質の特定に適した分析手法である固相マイクロ抽出(SPME)法を用いた異臭分析について紹介する。
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第二理化学検査室
食品事業者にとって、神経質にならざるを得ない問題の一つに異臭問題がある。異臭物質は、一般的に閾値(においを感じる最低濃度)が極端に低いものがあるため、微量でも異臭を引き起こすことがある。そのため、食品中に含まれる微量な異臭物質を分析することが求められ、これが異臭分析の難しさの一因となっている。
本稿では微量な異臭物質の特定に適した分析手法である固相マイクロ抽出(SPME)法を用いた異臭分析について紹介する。
SPME法は溶融シリカのファイバー表面をポリジメチルシロキサン(PDMS)などの薄膜で覆った抽出媒体を使用する試料前処理法であり、臭気物質を抽出及び濃縮し、定性分析する手法として臭気分析に幅広く使用されている。
SPME法の抽出原理を図1に示す。先ず、試料入りバイアルを加熱してヘッドスペース相に成分を移行させる。次に、バイアルを密封しているセプタムにニードルを貫通させ、ファイバーを露出させてヘッドスペース相にある分析対象物質を吸着させることで抽出を行う。最後に、ガスクロマトグラフの試料導入部にニードルを挿入し、ファイバーに吸着している分析対象物質を加熱脱離して分析を行う。
使用するファイバーには、表面に結合された液相の種類がいくつかあり、液相を変えることで抽出の選択性を大きく変えることができる。また、SPME法には液体試料に直接ファイバーを浸漬する方法もあり、これは分析対象物質が加温してもヘッドスペースへ十分に移行せず、試料溶液中に残留しやすい場合に有効である。
異臭分析を行うためには、分析対象物を何らかの方法で濃縮する必要があるが、濃縮操作は、一般的に大量の有機溶媒を使用し専用機器で行うことが多く、その操作に時間がかかるなどの問題がある。SPME法を用いることで、ファイバーによる選択的な抽出と濃縮を行うことができ、迅速で簡便な分析が可能となる。また、抽出に溶媒を使用しないことや液体、固体、気体試料すべてに適用できることも長所として挙げられる。さらには、気相をそのまま注入する方法(ヘッドスペース法)と比べてファイバーに濃縮して、ガスクロマトグラフに導入することができるため高感度分析が可能である。
一方、SPME法の短所としては高沸点物質、極性物質の回収率が低いことや定量性が高くないことが挙げられる。異臭の定性分析でなく、定量を目的とした分析を行う場合には、内標準物質を用いて定量性を高めることが必要である。
異臭分析の操作フロー例を図2に示す。
(1)試料採取
試料をバイアルに採取をする。その際、コンタミネーションには細心の注意が必要である。(なお、試料を保管する際はにおい移りのないようアルミホイルで包む、または袋で何重にも包むなどして、外部の臭気が試料に吸着しないようにする。)また、分析に使用するバイアルやセプタムなどの器具は、あらかじめ高温で加熱し 、臭気物質を除去しておくことが必要である。
(2)抽出
SPME法により試料から臭気物質を抽出する。
(3)測定
図3に示したガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて測定を行う。GC-MSのイオン化としては、電子イオン化法(EI法)を用いる。その理由として、マススペクトルのライブラリー数が圧倒的に多いことが挙げられる。ライブラリーに分析対象となる化合物のマススペクトルが登録されていれば,確度の高い定性分析が可能である。
(4)解析
測定によって得られた異臭品と正常品のクロマトグラムを比較する。両者の比較により、異臭品に特異的な化合物や異臭品の方が検出強度の高い化合物をそのマススペクトルから推定する。
官能検査で消毒臭が確認された試料についての分析例を紹介する。両者のクロマトグラム(図4)を比較した結果、異臭品に特異的な臭気物質として、クレゾールが検出され、消毒臭の原因物質として結論付けられた。
本稿では、異臭の原因となっている異臭物質の特定に用いられる分析手法の一つとして、SPME法を用いた異臭分析について紹介した。
弊財団では、主として食品クレームに関わる異臭検査を受託しています。消費者クレームを迅速に解決するための一手段としてぜひお役立ていただきたい。