今年も3月となり、4月から新人を迎える企業も多数あるだろう。微生物検査について全く知識、経験がない方、また、学生実験などで微生物を扱ったことがある方であっても、仕事として微生物検査を行うことは全てが新しいと感じるであろう。逆に、新人を迎える立場の方にとっても何をポイントにして教育すべきか悩むことも多々あるのではないだろうか。そこで、本稿では弊財団の微生物検査の習得の流れについて、新人が知りたいと感じるポイントを交えながら、新人の視点から解説する。
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
微生物検査室
今年も3月となり、4月から新人を迎える企業も多数あるだろう。微生物検査について全く知識、経験がない方、また、学生実験などで微生物を扱ったことがある方であっても、仕事として微生物検査を行うことは全てが新しいと感じるであろう。逆に、新人を迎える立場の方にとっても何をポイントにして教育すべきか悩むことも多々あるのではないだろうか。そこで、本稿では弊財団の微生物検査の習得の流れについて、新人が知りたいと感じるポイントを交えながら、新人の視点から解説する。
図-1 微生物検査の習得の流れ
本稿では図-1に従って微生物検査の習得の流れを解説する。また、今回は検査の中で培養までにあたるSTEP-1~STEP-3までを重点的に解説する。なお、STEP-4、5については、6月号のメールマガジンにて解説させていただく予定である。
消費者の食の安全、安心に対する意識の高まりを受け、食品関連事業者は消費者の意向に応えるべく、原材料、製造工程、最終製品、保存過程など様々な段階で微生物検査を行う。では、その微生物検査とはどのように行うのか。微生物検査では測定対象の「微生物の特性」を理解した上で適切な条件で検査を行う。適切な条件とは、測定対象の微生物が増殖するための栄養素を含む培地、培養温度、培養日数、培養環境(例:酸素の有無)などの条件である。これらの条件を組み合わせて確立された検査方法が、「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)などに記載されている。弊財団でも、依頼者の要望に合わせてこれらの検査方法に基づき検査を行っている。
微生物検査において基礎であり重要とされるのが無菌操作である。微生物は、検査室の空気中や検査台、検査員の手指、呼気などあらゆるところに常在している。微生物の検査を行う際、検査台や検査員に付着した微生物が混入すると誤った結果となるため、正しい検査結果を依頼者に提供するためにも適切な無菌操作は必要不可欠である。無菌操作は主に以下の4点に留意し、操作を行うことがポイントとなる。
これらの4点に留意し、操作することで無菌操作が可能となる。無菌操作に関しては微生物検査の根幹となるので実際の手順を交えながら教育すべきである。
図-2 STEP-3の流れ
STEP-3では①検査準備、②試料液の調製、③分注、④培養の4工程について解説する。また、各工程で起こりやすいミスや豆知識をいくつか紹介する。
本工程では、ガラス製及び金属製器具の乾熱滅菌や、検査に使用する培地や希釈水などのオートクレーブによる高圧蒸気滅菌を行う。滅菌後の培地や希釈水などは、「②試料液の調製」に使用する。微生物検査に使用する培地は、検査対象や検査項目などによって異なるため、種類が豊富である。また、同じ検査項目に使用する培地であっても選択性や特異性の違いによって複数の種類の培地がある。さらに、メーカーによって培地成分の由来が異なる場合もあり、種類の多さに繋がっている。
検査を始めたばかりの頃は、多くの種類の培地に圧倒されるかもしれないが、一つ一つの操作をミスなく確実に実施する訓練として培地調製は非常に有効な教育となる。
寒天培地
液体培地に寒天を入れて寒天培地を調製する際、寒天の入れ忘れにより、いざシャーレに培地を分注しても固まらないという失敗が起こることがある。培地調製には滅菌工程があり、時間を費やすうえ、培地のムダにも繋がるので注意したい。
培地の均一化のコツ
培地や希釈水の高圧蒸気滅菌が完了し、安全に取り出せる温度になった後、オートクレーブから取り出すが、例えばレシチンやポリソルベート80を含む培地は、水に溶けにくい特性により不均一となっていることがある。このような場合は、温かいうちに均一になるように混合するとよい。
写真1 試料液の調製
検体を切り取り滅菌袋に入れ、希釈液で希釈を行う。
検体を無菌的に採取し、希釈液を加え、ストマッカーを用いて均質化したものが試料液となる。なお、試料液は、試験法に定められた量の検体、希釈液を用いて調製する。定量試験においては、必要に応じて調製した試料液をさらに10倍の段階希釈を行い、シャーレに分注する。
検体との出会い
食品を対象とする細菌数の検査の場合、検体は原則25 gを採取するが、例えば食品衛生検査指針 微生物編(改訂第2版 2018)では、均一とみなされる検体は10 gでもよいとされている。粉末や液体の検体は、後者に該当するが10 gの採取でよいか否かの判断は難しい。この判断を、自信をもって行うためにも様々な検体に出会うことが大切であり、先輩の腕の見せ所でもある。
検体採取の悩み
微生物は食品中に均一に存在しているわけではない。母集団を代表した検査となるように検体の様々な部分から少量ずつまんべんなく採取する必要がある。この「少量ずつまんべんなく採取」の基準が新人にとって悩ましい問題であるため、予め検体採取に関する手順を定めておくとよい。
写真2 分注
希釈液をシャーレや試験管に分注する。
「②試料液の調製」で調製した試料液、及びその10倍の段階希釈液をシャーレや液体培地が入った試験管などに試験法で定められた量を分注する。
焦りは禁物①
検体の特性により、とろみのある試料液となる場合がある。試料液がメスピペットの内壁に付着するため、分注に苦労することがある。このような場合は、早く押し出すのではなくゆっくり押し出すことでより正確に分注することが可能となる。
ありがちなミスと防止策
一つの検体で多項目の検査を行う場合や多検体中に一検体だけ他の検体にはない検査項目がある場合、稀に分注を忘れてしまうミスが発生する。このミスを予防するためには事前の準備が重要である。検査に必要なシャーレや試験管のみを準備し、略号などでどの検体の検査か分かるようにシャーレや試験管に予め記載しておく。
写真3 培養
シャーレに培地を流し、混釈後固化。恒温器で培養する。
調製した試料液を分注したシャーレについては、寒天培地を適量分注し混釈・固化した後に、液体培地が入った試験管については、そのまま恒温器に入れ、試験法で定められた条件で培養する。
混釈の不安
シャーレに寒天培地を適量分注後、希釈液と寒天培地を混ぜ合わせることを「混釈」という。シャーレを左右に揺らすことで希釈液と寒天培地を混ぜ合わせるが、この混ぜ合わせる操作が意外と難しい。希釈液の色が透明や寒天培地の色と類似している場合、本当に均一に混ざっているのか不安になる。希釈液の代わりに色水を使い、検査で使用しなかった余った寒天培地と混ぜ合わせて混釈し、練習してみると、自身の混ぜ方で混ざっているのか確認することができて、自信に繋がる。
焦りは禁物②
寒天培地を分注し、固化後は培養を行うことになるが、寒天培地が固まっていないシャーレを倒置してしまうことや、積み上げたシャーレの山を倒してしまうということが稀にある。これは検査の経験値に限らず誰しもが起こしてしまう可能性がある。検査の終わりが見えていても焦りは禁物である。
培養後のシャーレの菌数計測や液体培地が入った試験管の状態確認を行い、必要に応じて確認試験を実施することで、結果を確定させる。
検査結果をもとに必要に応じて依頼者に結果の事前報告を行うと共に、要望があれば追加試験を行う。
本稿では、新人の視点で微生物検査の習得の流れについてまとめた。微生物検査の業務という捉え方はもちろん必要だが、その中でも楽しさを見出していけるとより微生物検査に親しみを持つことができる。ぜひ、楽しむ心を持っていただきたい。本稿が、間もなく新人を迎える企業において微生物検査に携わる方、またその方を教育する立場の方双方にとって有益となれば幸いである。