食品の品質管理における職場学習 ~資格検定から見えてきたこと~

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

FQS(Food Quality Solution)室

■はじめに

働き方の多様化が進む中、食品企業の品質管理部門における人材育成は企業競争力の要となっている。今回、当財団が2023年度に開講した資格検定「食品品質管理士」に関するアンケートやインタビュー調査を実施した結果から、企業における職場学習の一つとして、この資格検定を導入することの効果と今後の課題を整理した。

 

近年の動向として、ワークライフバランスの重視や自己実現・成長機会の追求といった働き方の多様化、価値観の変化が進行している。また、終身雇用制度や職能資格制度などの雇用政策の転換により、従来のOJTやOFF-JTといった人材開発施策の実施は減少傾向にあるが、その一方で、企業の競争優位性を確保するため、人材育成の重要性はこれまで以上に高まっている。このような状況下において、食品企業の品質管理部門は消費者の安全と健康を守り、企業の信頼を維持するための最重要機能の一つであると同時に、その人材の育成・教育は企業の競争優位性を確立する上で極めて重要な要素となっている。より具体的な例をあげると、食品安全マネジメントシステムの実践的な運用、品質トラブルの未然防止、トラブル発生時の迅速かつ適切な対応ができる人材の育成が求められている。そこで当財団では、このような食品企業における品質管理教育を支援するため、公益目的事業の一環として「食品品質管理士」の資格検定を開講しており、このたび、食品品質管理士の受講者へのアンケートおよびインタビュー調査を実施し、その分析結果をもとに、食品の品質管理における今後の職場学習の方向性と課題を以下に整理しました。本内容が皆様の人材育成活動の一助となれば幸いです。

■食品品質管理士の受講者の業種や職種の状況

業種別では、受講者の約80%は食品製造業の方が占めるが、商社から機器メーカーまで様々な業界の方に受講いただいている。また、食品製造業の中でも、健康食品から素材メーカーまで、食品の加工度を問わず幅広い業種の方に受講されている。職種別では、品質管理部門に所属される方が全体の約75%を占めている。

図1 食品品質管理士 受講者の業種別割合

これまでに受講された方の所属を業種別に整理したところ、食品製造業に従事される方が全体の80%程度を占めていることが明らかになった。食品製造業の中では健康食品、総合食品、パン・菓子類、調味料などといった比較的加工度の高い食品を製造している企業が多い傾向にあるものの、素材や製粉、農畜産品メーカーまで幅広い業種の方に受講いただいている。さらに、食品製造業だけはなく、商社やコンサルティング、機器メーカー、人材派遣会社に至るまで様々な業界の方に受講いただいていることがわかった。(図1)

図2 食品品質管理士 受講者の職種別割合

次に、これまでに受講された方の所属を職種別に整理したところ、品質管理部門に所属されている方が圧倒的多数を占め、全体の約75%に達することが判明した。食品の品質管理に関する知識は本来、研究開発部門や生産部門においても必要不可欠であるが、現状では製造現場で品質管理に従事している方が多く受講されていることがわかった。(図2)

■職場学習として資格検定を受講することの効果

資格検定という形で学習成果を可視化することで、目標が設定され、かつ能動的な学習が促進されるため、資格検定を職場学習に導入することが効果的な学習環境を構築することに繋がる。

 

食品品質管理士の受講者を対象に「受講前と比較して感じられる変化」について、アンケートおよびインタビュー調査を実施したところ、以下のようなご意見を頂戴した。

 

「検定として学んだ成果を残せる」
「知識がつくと社内での会話が理解できるようになった」
「この資格を取得すれば先輩に追いつけると考え、前向きに取り組むことができた」
「周囲が勉強している姿を見て“自分も勉強しなければ”という気持ちになり、自然と学習の動機づけがされた」
「周囲の学習する姿勢や検定に合格する様子を目にすることで、“自分も頑張らなければ”という前向きな気持ちが自然と生まれ、学習意欲が高まった」

 

本調査を通じて明らかになったことは、学習成果が形として可視化されることがもたらす効果である。具体的には、新入社員や部署への新規配属者に対して、明確な目標設定が可能となり、知識習得への能動的な取り組みを促進する効果が確認された。また、同一部署内で複数の社員が受講した場合、当初は上司からの指示など受動的なきっかけであっても、周囲の学習状況を観察することで能動的な学習意欲が喚起されるという相乗効果も見られた。一般的に学習の定着率向上には能動的かつ反復的な学習が効果的とされているが、職場学習に資格検定を導入することで、この効果を期待できることが本調査により判明した。

■学習ニーズに関する調査結果と今後の課題

今後の学習ニーズに関する調査により浮かび上がった課題は、食品の品質管理に関する法令知識や技術的知識を「いかに実践の場で活用するか」、すなわち、実践的な課題解決力の習得である。

質問:食品品質管理について、さらに学習したいことがあれば教えてください

 

図3 今後さらに学習したい内容に関するアンケート結果

食品品質管理士 基礎の受講者に対し、今後さらに学習したい内容についてアンケート調査を行ったところ、図3に示す結果となった。最も関心が高かったのは(第1位)、法令分野であり、具体的なコメントとして「法令は難解な書き方がされており、解説書があるとありがたい」といった意見が寄せられた。第2位は、食品品質管理士 中級・上級コースの開講の要望であり、コメントからは「トラブル発生時の課題解決方法など、より実践的な内容について学習したい」といったニーズが明らかになった。第3位は、HACCPに関する内容で、これは食品衛生法の一部改正に伴い2021年からHACCPが義務化されたことが背景にあると考えられ、実際に「HACCPに関連する業務を担当しているため、もう少し掘り下げて学習したい」などのコメントが見られた。第4位には、微生物のリスク管理、マネジメントシステム、食品表示に関する内容があげられており、食品の品質管理に携わる方が注目している分野や課題が浮き彫りとなった。

特に注目すべきは、食品品質管理士 中級・上級コースの開講が第2位に位置づけられている点です。個々のコメントの内容にも「実践的」・「具体的」・「事例」といったキーワードが頻繁に見られており、これは多くの受講者が知識を習得しても、その知識を実際の製造現場で十分に活用できておらず、習得した知識を如何に有効に活用するかについて課題を感じていることを示唆している。

職場における学習の本来の目的は「業務を適切に遂行できるようになること」であり、単なる知識の習得がゴールではない。そのため、知識を習得した上で、それを実践の場で効果的に活用できるようにするためのトレーニングが必要不可欠だと考えられる。

さらに、現在の人材育成を取り巻く環境を考慮すると、より効率的なトレーニングの手法の開発が求められているといえる。当財団では、今後も食品の品質管理や検査業務に携わる人材の育成に貢献すべく、実践的かつ効果的な教育コンテンツの整備と拡充に継続的に取り組んでまいります。この取り組みと、今回のアンケートやインタビューに基づく教育に関する調査結果が皆様の今後の人材育成活動の一助となれば幸いです。

 

情報提供

資格検定(食品分析士・食品品質管理士)のWebサイトをリニューアルいたしました。団体受講者様のインタビュー記事なども新たに掲載しております。
https://shokuhin-kentei.com/