PFASの規制動向と分析法について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第二理化学検査室

【PFASとは】

PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)とは、主に炭素とフッ素からなる、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称であり、1万種類以上存在するとされている。PFASは、耐熱性、撥水性、撥油性、耐薬品性に優れ、食品の保存容器や調理器具、半導体製品、金属メッキなど、食品関連分野に限らず幅広い用途で使用されてきた。

一方で、PFASは環境中でほとんど分解されない「難分解性物質」であるため、環境および食品への残留が懸念されている。さらに、ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されており、EUでは一部の畜水産物に対して、PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAといった代表的なPFASに基準値を設けている。

主なPFASであるPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの構造式を図1に示す。

図1. 主なPFASの構造式

【PFASの日本国内での規制について】

日本は2002年8月に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)に加盟している。POPs条約の対象物質としてPFASの一部が指定されたことを受け、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)に基づき、2010年にPFOSが、2021年にPFOAが、2024年にはPFHxSが「第一種特定化学物質」に指定され、製造・輸入の原則禁止などの措置が講じられている。

また、環境省では2009年以降、河川等の公共用水域における水質、底質、生物、大気中のPFOS及びPFOAの濃度を継続的に測定している。2020年には、水道水における水質管理目標設定項目に位置付け、暫定目標値(PFOS及びPFOAの合算値で50 ng/L以下)を設定するとともに、公共用水域、地下水についても、要監視項目に指定し、PFOS及びPFOAの合計値で50 ng/Lという指針値(暫定)が設定された。令和7年6月30日付で「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布がされ、これにより、令和8年4月から、水道事業者等に対して、PFOS及びPFOAに関する水質検査の実施及び基準を遵守する義務が新たに課されることとなった。同時にミネラルウォーター類のうち殺菌又は殺菌を行うものについて、食品衛生法に基づく成分規格(PFOS及びPFOAの和として0.00005mg/L以下)が設定された。

【PFASの分析方法】

水質に対しての分析法は「水質管理目標設定項目の検査方法」に記載がある。そして、食品に対しては、2024年8月に、農林水産省により農産物に対するPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの分析法が策定された。これは、主に食品中の残留農薬を検査するために使われる簡便で迅速性の高いQuEChERS法に準拠した方法を用い、LC-MS/MSにより測定を行う手法である。

試料に水、アセトニトリル、ギ酸を加え、抽出を行う。その後、抽出用試薬(MgSO4 、NaCl)を加え、振とう後、遠心分離を実施、上層を分取し、精製用試薬(MgSO4、PSA、GCB)へ添加する。再度振とう後、遠心分離、上層を分取し、窒素濃縮装置で濃縮した後、固相抽出カラム(弱塩基性陰イオン交換樹脂ミニカラム)で精製を行い、再び窒素濃縮装置で濃縮乾固する。メタノールで定容後、フィルターろ過を行い試験溶液とし、LC-MS/MSにより測定を行う。PFASの分析法フローチャートを図2に示す。

注意点としては、分析に用いる器具、装置、及び資材は、PFASを含まない(PFASフリー)ものを使用する。その際、使用するガラス器具は、原則としてアセトンで洗浄したものとする。特に分析用バイアルにはPFASフリーのセプタムを使用することが推奨されている。また、LC-MS/MS についても、PFASに汚染されていない機器を用意し、可能であればPFAS分析専用として使用し、高濃度標品の分析後には、メタノール等により、LC-MS/MS 配管内の洗浄を行う。

図2. PFASの分析法フローチャート

【おわりに】

本稿ではPFASの規制動向と分析法について概説した。現在ではPFASの製造、輸入が禁止されていることから、今後、PFASの環境中濃度が増加する可能性は低いと考えられる。しかしながら、PFASは極めて難分解性であるため、たとえ濃度が減少傾向にあるとしても、短期間で消失するものではない。今後もPFASに関する国内外の動向を注視し、適切な分析と監視が求められる。

参考文献

PFASハンドブック 【環境省】
https://www.env.go.jp/content/000305650.pdf
POPs条約について 【経済産業省】
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pops.html
「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布等について 【環境省】
https://www.env.go.jp/press/press_00075.html
ミネラルウォーター類におけるPFAS(PFAS及びPFOA)の成分規格の設定に関する食品、添加物等の規格基準の一部改正について(令和7年6月30日消食基第402号、健生発0630第5号)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_pollution/pfas/assets/standards_cms105_250630_002.pdf
「水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について」(平成 15 年 10 月 10 日付け健水発第 1010001 号)別添4 水質管理目標設定項目の検査方法
https://www.env.go.jp/content/900547462.pdf
農産物中のPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの分析法 (標準作業手順書)【農林水産省】
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/PFAS/attach/pdf/index-1.pdf