ガラス電極式pHメーターの取り扱いについて

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第一理化学検査室

1. はじめに

ガラス電極式pHメーターは測定対象の溶液に電極を浸すだけでpHを簡便に測定できる身近なものであるが、なぜpHが測定できるのか、その原理について疑問に思ったことはないだろうか。今回は、その仕組みや注意事項について紹介する。

pHは溶液中の水素イオン濃度を表しているが、ガラス電極式pHメーターで実際に検出しているのは2つの電極間(ガラス電極と比較電極)で発生する電位差である。ガラス電極は、その先端が水素イオンに選択的に応答するガラス応答膜となっており、膜の内側(ガラス内部の電極内部液)と外側(電極が浸されている測定対象の溶液)の水素イオン濃度の差に応じて電位差が発生し、その電位差を測定する。比較電極は、常に一定の電位を示すものでガラス電極との電位差の基準となる。pH標準液での校正時にも同様の電位差を計測しており、電位差とpHの相関関係を利用することで測定対象の溶液のpHを算出している。1)

以下に、ガラス電極式pHメーターを用いてpHを測定する際の操作方法と注意事項を解説する。

2. 操作フローと注意事項

使用前の準備

・電極の洗浄と乾燥防止

電極保護キャップを外して電極を純水でよく洗い、付着した純水は、きれいな柔らかい紙などで軽くふき取る。

・電極内部液の液量確認

電極内部液が補充口近くまで満たされていることを確認する。1)

 

使用時の注意点

・電極内部液補充口の開閉

電極内部液の補充口は使用前に開け、使用後は閉じること。
補充口を開けることで、電極先端(液絡部)から試料側へ電極内部液が流出し、正しいpH測定が可能になる。補充口が閉じた状態では水圧により内部液が流出しにくく、不安定な測定結果に繋がる。使用後は閉じることで内部液の蒸発を防ぐ。

・使用後の保管

電極保護キャップ内に純水で湿らせたスポンジ等を入れ、電極の乾燥を防ぐ。先端部分の乾燥は、電極の劣化を早め、寿命を縮めることに繋がる。

・電極内部液の管理

電極内部液には3.33 mol/Lの塩化カリウム溶液を使用すること。
一定期間(使用頻度により1~2週間から1カ月を目安に)で交換する。毎月最初の測定時に交換する等、あらかじめ交換頻度を決め、交換したら「○日交換」など記録しておくとよい。

・電極の取り扱いと清掃

電極先端は水素イオンに選択的に応答するガラス応答膜があり、衝撃や乾燥に非常に弱いため、特に慎重に扱う。
電極の汚れがひどい時は、汚れの種類ごとに適した洗浄液に漬けたのち、洗浄液を含ませたガーゼ等で拭き取る

 

表1 汚れの種類と洗浄液(一部抜粋)2)

汚れの種類 洗浄液
一般的な汚れ 薄めた中性洗剤
油分の汚れ エタノールや薄めた中性洗剤
無機成分などの汚れ 1 mol/L程度の塩酸
たんぱく質を含んだ汚れ たんぱく質分解酵素入り洗浄液
 

図1-1 ガラス電極の一例

ガラス電極と比較電極が一体となった構造をしている

 

 

図1-2 ガラス電極先端の拡大写真

液絡部(矢印)とガラス応答膜(丸印)がある

 

 

図2 電極内部液の交換の様子

電極を傾けてスポイトで電極内部液を抜き取る

 

 

使用するpH標準液の種類と選定基準

・pH標準液の種類

シュウ酸塩pH標準液(pH2)
フタル酸塩pH標準液(pH4)
中性リン酸塩pH標準液(pH7)
ホウ酸塩pH標準液(pH9)
炭酸塩pH標準液(pH10)
水酸化カルシウムpH標準液3)(pH12)

※一般的に、中性リン酸塩pH標準液(pH7)と、測定対象の溶液のpHに近いpH標準液を用いる。

※測定対象の溶液がpH9を超える場合は、水酸化カルシウムpH標準液(pH12)を用いるとよい。

※国家計量標準にトレーサブルなpH標準液を使用することが望ましい。(JCSS(Japan Calibration Service System、計量法トレーサビリティ制度)として認定された校正証明付きの第2種pH標準液など)

・校正時の確認事項

保証期限内のpH標準液を用いて、使用日の初回使用時に実施する。
校正時の感度が90%以上で不斉電位が±30mV以内であることが一般的に正常とされる範囲である。1)

 

 

試料の測定と温度調整

・試料の採取

液体試料はビーカーなどに移し替える。
固形試料については、採取した試料に純水を加えてスターラー等で撹拌し、完全に溶けたことを確認する。

・測定

ガラス応答膜と液絡部が測定対象の溶液に完全に浸っていること。
比較電極内部液の試料側への流出を促すため、電極内部液の液面は試料の液面より高い位置にする。
電極を入れ、30秒撹拌した後、撹拌を止めて値が安定してから測定する。

・温度

測定対象の溶液をpH標準液と同程度の温度に保つこと。

 

3. おわりに

ガラス電極式pHメーターは、手に入りやすく、操作も比較的容易なことから、研究から食品・環境分野まで幅広く用いられている。ガラス電極式pHメーターの専門的な仕組みを完全に理解することは難しいが、電極の基本的な取り扱いや測定原理を知っておくことは、正確な測定や、トラブルの原因を推測し、解決の糸口を探る助けとなる。

本稿で紹介した測定上の注意点やポイントが、日常業務で使用するガラス電極式pHメーターを用いた測定に役立ち、より信頼性の高いデータ取得に繋がれば幸いである。

参考文献

1)
公益社団法人日本分析化学会 機関紙「ぶんせき」2020年5月号ミニファイル
「前処理に必要な器具や装置の正しい使用法/ガラス電極式pH計」桑本恵子
https://bunseki.jsac.jp
2)
株式会社堀場製作所 pH電極取扱説明書
3)
食品衛生検査指針 理化学編 2015(公益社団法人 日本食品衛生協会)