食品中の鉄について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第一理化学検査室

【はじめに】

私たちが摂取する食品には、健康維持に欠かせない栄養素が数多く含まれている。その中でもミネラルは、体の機能を支える重要な成分である。特に鉄は、酸素を運ぶ役割を担い、生命活動に不可欠な元素として知られている。本稿では、鉄の働きや推奨摂取量、そして食品表示基準に基づく分析方法について解説する。

【鉄の役割】

鉄は私たちの体に欠かせない必須ミネラルで、成人の体内には約3~4g存在している。その大部分は血液中のヘモグロビンとして酸素を全身に運び、筋肉中ではミオグロビンとして酸素を貯蔵する。また、鉄はエネルギー代謝に関わる酵素の働きを助ける補因子としても重要で、生命活動に不可欠な元素である。

 

・鉄不足と過剰摂取の影響

鉄が不足すると、鉄欠乏性貧血を引き起こし、疲労感や集中力の低下、めまいなどの症状が現れる。これは、酸素を運ぶヘモグロビンが十分に作られないためである。一方で、過剰摂取は鉄過剰症や酸化ストレス(体内で活性酸素が増え、細胞に負担をかける状態)の原因となる可能性があるため、適切な摂取量を守ることが健康維持に不可欠である。

 

・推奨摂取量

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人男性で約7.0mg/日、成人女性で約10.5mg/日の鉄摂取が推奨されている。妊娠期や授乳期にはさらに多くの鉄が必要である。年齢やライフステージごとの推奨量を表1に示す。食品表示基準では、鉄は栄養成分表示の対象であり、鉄強化食品やサプリメントも広く利用されている。自分に必要な鉄の量を知り、どのように摂取するかを理解することが、健康維持のために重要である。

 

表1 鉄の食事摂取基準(mg/日)

 

・食品中の鉄の種類と吸収率

食品中の鉄は、動物性食品に多く含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に多く含まれる「非ヘム鉄」に分けられる。ヘム鉄はたんぱく質と結合しており吸収率が、約15~25%と高く、レバー、赤身肉、かつお、まぐろなどに多く含まれる。非ヘム鉄は吸収率が、約2~5%と低いが、ビタミンCと一緒に摂取すると吸収が促進される。ビタミンCは加熱で失われやすいため、ビタミンCを多く含み、非加熱で食べられるオレンジ、いちご、キウイなどの果物を食後に加えるとよい。非ヘム鉄を多く含む食品には、ほうれん草、小松菜、豆類、海藻などがある。鉄の吸収を阻害する成分として、米ぬかに含まれるフィチン酸や、紅茶・緑茶に含まれるタンニンが知られている。これらを踏まえ、鉄を効率よく摂取するには、鉄を多く含む食品を選ぶだけでなく、食事で摂取する食品の組み合わせが重要である。

【鉄の分析方法】

鉄の分析方法は、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」(以下、食品表示基準の方法)や「日本食品標準成分表2020年版(八訂)分析マニュアル」に収載されている。食品表示基準の方法では、鉄の分析法としてオルトフェナントロリン吸光光度法、原子吸光光度法、誘導結合プラズマ発光分析法の3種類が示されている。いずれも試料中の有機物を乾式灰化または湿式灰化で処理し、溶液化した後、各分析法で測定を行う。以下に、それぞれの特徴を解説する。なお、乾式灰化法と湿式灰化法の詳細は弊財団メールマガジン「無機成分における試料溶液の調製法(2021年9月発行)」を参照されたい。

 

1. オルトフェナントロリン吸光光度法

鉄(II)イオンがオルトフェナントロリンと反応して橙赤色の錯体を形成する性質を利用し、その吸光度を測定することで鉄の濃度を定量する方法である。簡便で設備負担が少ないため古くから広く用いられてきたが、近年は、より高精度な原子吸光光度法や、微量な多元素を同時分析が可能なICP発光分析法が主流となっている。

 

2. 原子吸光光度法(AAS)

鉄専用の中空陰極ランプを光源とし、鉄原子が特定波長の光を吸収する性質を利用して定量する方法である。調製した試験溶液をネブライザーで噴霧し、空気-アセチレン炎中で原子化した後、吸光度を測定する。鉄濃度が高い場合は塩酸で希釈し、検量線の範囲内に調製する。この分析法は、食品表示基準の方法でも標準的な方法として位置づけられている。

 

3. ICP発光分析法(ICP-OES)

誘導結合プラズマ中で励起された鉄元素から放出される発光スペクトルを測定することで定量する方法である。調製した試験溶液をアルゴンプラズマに導入して、238.204 nmの発光強度を測定する。試料溶液中の元素組成の影響などによる分光干渉は波長選択や内標準法によって補正する。この方法は多元素同時分析が可能で、微量元素の高精度測定に適している。

食品分析の主流である原子吸光光度法及びICP発光分析法の分析フローチャートを図1に示す。

 

 

図1 原子吸光光度法及びICP発光分析法の分析フローチャート

【さいごに】

鉄は健康維持に欠かせないミネラルであり、その正確な定量は栄養情報の信頼性を支える重要な要素である。日々の食生活で適切な鉄の摂取量を把握するためにも、分析による正確なデータ提供が不可欠である。本稿が、食品中の鉄に関する理解を深める一助となり、日々の品質管理や栄養設計の検討に役立てていただければ幸いである。

【文献】

(1)
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001396865.pdf
(2)
食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1015.pdf
(3)
日本食品標準成分表2020年版(八訂)分析マニュアル
https://www.mext.go.jp/content/20220222-mext_kagsei-index_100.pdf