残留農薬等の基準値の留意点について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第二理化学検査室

1.はじめに

食品中の残留農薬等は2006年5月29日に施行された「ポジティブリスト制度」により規制されており、人の健康に害を及ぼすことのないよう、全ての農薬、飼料添加物、動物用医薬品について、食品ごとに残留基準が設定されている。単一成分だけでなく、農薬等を使用した農産物などから生成される代謝物や分解物も規制対象になるため、分析対象化合物として残留基準値の留意点に記されており、留意点に記載されている内容を満たした分析値が残留基準値と正確に比較することができる。基準値の改正時に規制対象が変更されることもあるため、内容を確認しておくことは大切である。過去の豆知識で紹介した内容に変更点を追記して紹介する。

2.留意点の紹介と解説

【BHC】【γ─BHC】

BHCは異性体が存在し、α─BHC、β─BHC、γ─BHC及びδ─BHCの総和で規定されている。中でも殺虫作用の高いγ─BHC(リンデン)のみ検出した場合には、γ─BHCの規格基準が適用される。

【2,4─D】

2,4─Dには、2,4─Dと留意点に列記されている全ての分析対象化合物(2,4-Dの塩類及びエステル体)を含んだ分析値が必要となる。全ての分析対象化合物を検査するには、通知の個別試験法のように、加水分解を行い、2,4-Dのエステル体を2,4-Dに集約する操作が必要である。一方で通知の一斉試験法では、全ての分析対象化合物を含む検査ができないため、留意が必要であり、同様の扱いとなる農薬はMCPAがある。

【アルジカルブ及びアルドキシカルブ】

2013年6月27日までは、アルジカルブとアルジカルブのスルホン体であるアルドキシカルブはそれぞれに残留基準値が設定されていたが、統合されてアルジカルブ及びアルドキシカルブとなり、分析対象化合物には、アルジカルブスルホキシドも含まれる。

【エマメクチン安息香酸塩】

食品によって分析対象化合物が異なるケースは多く、例えば、農産物や畜水産物などで代謝、分解、蓄積等の影響により規定が細かく分かれることがある。エマメクチン安息香酸塩は、農産物においてはエマメクチン安息香酸塩(B1a及びB1b)、エマメクチン(B1a及びB1b)、エマメクチンアミノ体(B1a及びB1b)、エマメクチンホルミルアミノ体(B1a及びB1b)、エマメクチンN-メチルホルミルアミノ体(B1a及びB1b)及び8,9-Z-エマメクチンB1aをエマメクチン安息香酸塩含量に換算したものの総和である。畜水産物においてはエマメクチンB1a及び8,9-Z-エマメクチンB1aをエマメクチン安息香酸塩含量に換算したものの和となり、食品により規定が異なるため注意が必要である。

【オキシテトラサイクリン】

【オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン及びテトラサイクリン】

オキシテトラサイクリンに残留基準の設定がある農産物や水産物の場合は、その規格基準が適用される。オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン及びテトラサイクリンに残留基準の設定がある畜産物の場合は、3種の総和で規定されている。これらは抗生物質であるため、どちらにも該当しない場合は、含有してはならないこととなる。

【カルボスルファン】【ベンフラカルブ】【フラチオカルブ】【カルボフラン】

カルボスルファン、ベンフラカルブ、フラチオカルブの使用により、これらの代謝物であるカルボフラン及び3-ヒドロキシ-カルボフランが残留することがある。2020年7月14日の基準値改正により、カルボスルファンとベンフラカルブは親化合物のみが分析対象化合物となり、親化合物の検出の有無に関わらず、代謝物はカルボフランとして規制されることとなった。しかし、フラチオカルブに関しては従前通り、親化合物が検出した場合に限り、フラチオカルブと代謝物を含めてフラチオカルブの規格基準が適用されるため、注意が必要である。また、カルボフランは、農産物においてはカルボフラン及び3-ヒドロキシ-カルボフランをカルボフランに換算したものの和、魚介類の場合はカルボフランのみと規定されている。

【クロチアニジン】

クロチアニジンはチアメトキサムの代謝物であるため、クロチニジンが検出した際には、使用農薬にチアメトキサムの履歴も確認した方がよい。同様のケースで、アセフェート由来のメタミドホスの検出や、トリアジメホンの使用によるトリアジメノールの残留もある。

【ジクロベニル】【フルオピコリド】

ジクロベニルは、農産物においてはジクロベニルと代謝物2,6-ジクロロベンズアミドをジクロベニルに換算したものの和となるが、この代謝物は、フルオピコリドの代謝物でもある。代謝物の検出がフルオピコリド由来であることが明らかな場合は、フルオピコリドの規格基準を適用し、代謝物は規制の対象外となる。またこの場合、ジクロベニルの規格基準は適用しないこととなる。

【シペルメトリン】

シペルメトリンは8種の光学異性体からなり、異性体の和が分析対象化合物となる。海外では薬理効果の高いゼータ-シペルメトリンが製剤として使用されており、ゼータ-シペルメトリンもシペルメトリンに含まれている。同様のケースで、シハロトリンのラムダ-シハロトリンやフェンバレレートのエスフェンバレレートもある。

【ジベレリン】

残留基準値が定められていない農産物については、原則一律基準 ( 0.01ppm)が適用されるが、ジベレリンは農産物において天然由来で含有することが示唆されたため、食品中に通常含まれる上限濃度の0.3ppmを超えていない場合や、0.3ppmを超えたとしても、文献等により当該農産物における天然由来のジベレリン濃度が残留濃度より高いことが確認できた場合は食品衛生法に基づく行政指導や行政処分の対象とはならない。

【ホセチル】

ホセチルは分解物として亜リン酸を生じるため、その規格基準はホセチルと亜リン酸をホセチル含量に換算させたものの和について設定されている。ホセチルは分解物の亜リン酸として検出することが多いが、亜リン酸は肥料としても広く使用されていることから、ホセチルの使用履歴だけでなく、肥料の使用履歴についても確認が必要となる場合がある。

   

参考文献

 
平成17年11月29日食安発第1129001号
食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第11条第3項の施行に伴う
関係法令の整備について