ナイアシンについて

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

微生物検査室

1. はじめに

ビタミンは、それ自体が体の構成成分になったり、エネルギー源になるものではないが、正常な生理機能を保つためには必要不可欠な成分である。一般的に脂溶性ビタミン4種類と水溶性ビタミン9種類の合計13種類のビタミンが存在する。

今回は水溶性ビタミンの一種であるナイアシンについて、その化学的特性、生理作用、分析方法を中心に紹介する。

2. ナイアシンとは

ナイアシンはニコチン酸(図1)及びニコチン酸アミド(図2)を総称する名称である。ニコチン酸及びニコチン酸アミドはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+、NADH)やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+、NADPH)に変換され、酸化還元反応に関与する酵素の補酵素として機能しており、エネルギー産生にも関わっている。

ナイアシンは食品からの摂取ばかりでなく、生体内で必須アミノ酸のトリプトファン(図3)からも一部生合成される。ヒト肝臓において質量比でトリプトファン60からナイアシン1の合成が可能であり、摂取にあたってはトリプトファンの摂取量も考慮する必要があることから、食品表示基準や日本人の食事摂取基準(2020年版)では、ニコチン酸、ニコチン酸アミドの合計量に1/60トリプトファンを加えた値をナイアシン当量と規定している。

図1 ニコチン酸

図2 ニコチン酸アミド

図3 トリプトファン

3. ナイアシンの化学的特性

ナイアシンは水溶性であり、中性、酸性、アルカリ性、酸素、光、熱に対して安定である。

4. ナイアシンの吸収や生理作用

ナイアシンは動物性食品中ではニコチン酸アミド、植物性食品中ではニコチン酸として存在し、いずれも小腸で速やかに吸収される。ニコチン酸アミドは先に肝臓以外の組織に運ばれ、利用される。一方、ニコチン酸やナイアシン活性のあるトリプトファンは肝臓に取り込まれた後、ニコチン酸アミドに変換され、各組織に放出される。各組織で余剰となったニコチン酸アミドの一部は肝臓に取り込まれ、食事で摂取されたニコチン酸やトリプトファンから変換されたニコチン酸アミドとともに各組織に放出される。通常の食事による摂取では過剰症は発症しないが、大量に長期間摂取すると肝臓や消化器系に障害が発症する。

生理作用としては、冒頭でも述べたが、酸化還元反応の補酵素として作用し、ATP 産生等エネルギー代謝に関与している。

ナイアシンの欠乏はペラグラと呼ばれる皮膚炎や下痢、神経症状などを引き起こす。

5. ナイアシンの栄養成分表示

ナイアシンは食品表示基準において、栄養成分表示の任意表示項目の1つに設定されており、一定の値で表記する場合、その表示の許容差の範囲は -20%~+80%と設定されている。

また、栄養機能食品の対象成分として機能の表示を行うことができる。栄養機能食品として販売するためには、1日当たりの摂取目安量に含まれる成分量が3.9~60 mgの範囲内にある必要があるほか、下記に示す栄養成分の機能、注意喚起表示等を表示する必要がある。

(1) 栄養成分の機能

ナイアシンは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。

(2) 摂取をする上での注意事項

本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。一日の摂取目安量を守ってください。

その他、摂取の方法やバランスのとれた食生活の普及啓発を図る文言など定められた内容を明記する必要があるが、詳細は消費者庁のHPなどを参考されたい。

成分量については、栄養機能食品の場合、合理的な推定による値は認められず、食品表示基準に定められた方法によって得られた値で表示する必要がある。

6. ナイアシンの分析

食品表示基準におけるナイアシンの分析方法は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)と微生物学的定量法が採用されている。HPLC法は食品中にニコチン酸又はニコチン酸アミドが1 mg/100g以上含まれていて、さらにその存在形態が明らかな場合に適用される。

一般的な食品においては、ニコチン酸及びニコチン酸アミドを分別して定量する必要はなく、感度及び特異性に優れた微生物学的定量法が適用される。

ここでは、微生物学的定量法について紹介する。微生物学的定量法は、ビタミンを必須栄養素として要求する微生物を測定対象となるビタミンを除いた培地で培養した際の微生物の増殖具合(濁度)よりビタミンを定量する方法である。

試料に酸溶液を添加した後、加圧抽出する。続いて、pHを調整後、定容・ろ過を行い、試験溶液とする。

ニコチン酸定量用培地にナイアシン標準溶液または試験溶液及び試験菌株(Lactobacillus plantarum ATCC 8014)を接種して、一定時間培養後、培養液の濁度(600 nm)を測定し、試料中のナイアシン含量を算出する(図4)。

微生物学的定量法は分析結果が菌株の発育状況に大きく左右される他、試験法の原理や成分自体の特性を理解・把握しておくことは勿論のこと、理化学的処理や微生物を取り扱う技術力、経験が必要とされる難易度の高い試験法であると言える。

図4 ナイアシン分析のフローチャート

7. さいごに

ナイアシンは、たらこ、魚類(まぐろ類、かつお類)、肉類(鶏むね、ささみ)、落花生などに多く含まれており、エネルギー代謝に関与する水溶性ビタミンである。栄養機能食品の対象成分でもあるが、多量摂取により、健康が増進するものではない。通常の食生活では欠乏することはなく、日頃からバランスのよい食事を心がけたい。

参考文献

1)
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
2)
消費者庁 食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)
別添 栄養成分等の分析方法等
3)
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 ナイアシン解説
4)
公益社団法人 日本ビタミン学会 いろいろなビタミンについての解説
5)
<事業者向け>食費表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン 第3版
(令和2年7月) 消費者庁 食品表示企画課
6)
早わかり栄養成分表示Q&A 中央法規出版株式会社 (2017)
7)
日本食品標準成分表2020年版(八訂) 文部科学省