食物繊維について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

第一理化学検査室

1. はじめに

近年、「食物繊維たっぷり」などと謳った商品を見かけることが多くなった。食物繊維は「おなかの調子を整える」や「糖の吸収をおだやかにする」などの効果があると知られており、特定保健用食品や機能性表示食品の関与成分として多く使用されている。「令和元年食品表示に関する消費者意向調査報告書」(消費者庁)では、「糖質」と「食物繊維」を義務表示にすることを希望する人の割合が多く、特に食物繊維は非常に関心の高い栄養成分である。本稿では、近年注目されている「食物繊維」について紹介する。

2.食物繊維の種類と効果

食物繊維は「第6の栄養素」といわれているが、かつては役に立たないものとして扱われていた。健康や疾病の予防に効果がある成分として食物繊維が注目されてきたのは1970年代頃からである。

食品表示基準において、食物繊維は、熱安定α-アミラーゼ、プロテアーゼ及びアミログルコシダーゼによる一連の処理によって分解されない多糖類及びリグニンと定義されており、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2つに分類できる。不溶性食物繊維は、穀類や豆類などに含まれており、ボソボソ、ザラザラとした食感が特徴的である。保水性が高いため、水分を吸収してふくらみ、蠕動運動を活発にし、便通を促進する。水溶性食物繊維は、海藻類などに含まれており、ネバネバ、サラサラとした特徴がある。腸内細菌のえさとなり、腸内環境を整えたり、血糖値の上昇やコレステロールの増加をおさえるなどの効果があると言われている。代表的な食物繊維の種類と含まれる食品を表1に示す。

表1.食物繊維の種類

分類 成分名 食品
不溶性食物繊維 セルロース 野菜、穀物、ふすま
ヘミセルロース ふすま、豆類
ペクチン 未熟な果実
キチン エビ、カニの殻
リグニン ココア、穀物、豆類
水溶性食物繊維 β -グルカン 大麦
ペクチン 熟した果実
グルコマンナン こんにゃく、山芋
アルギン酸 昆布、わかめ
グアーガム グアー豆

食物繊維は、通常の食生活において、過剰摂取の心配はなく、むしろ努力しないと不足しがちになる栄養成分である。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食物繊維の目標量は1日あたり、18~64歳の男性で21 g以上、女性で18 g以上となっているが、この目標値に達していないのが現状である。健康を維持していくためにも、食生活の中で意識的に食物繊維を摂取する必要があり、例えば主食を白米から玄米や胚芽米などの精製度の低い穀類に変更したり、生野菜は加熱調理により野菜スープなどにしてかさを減らしたり、豆類やきのこ、海藻類で一品料理の小鉢をおかずに足してみるなど、工夫して食事に取り入れていくことが大切である。「食物繊維たっぷり」、「食物繊維豊富」などと記載された食品は、食物繊維が豊富に含まれる原材料を使用したり、食物繊維素材を添加することにより、食物繊維含量を増やしている。食物繊維が強化された食品を私たちの食生活に上手に取り入れることで、食物繊維の摂取量を増やすことができる。よく使用されている食物繊維素材には、難消化性でんぷん、難消化性デキストリン、イヌリン、ポリデキストロースなどがある。次章では日本で使用される食物繊維素材として最も代表的であり、特定保健用食品や機能性表示食品の関与成分として多く使用されている難消化性デキストリンについて解説する。

 

3.難消化性デキストリンについて

低分子水溶性食物繊維の一種である難消化性デキストリンは、名前の通り消化されにくいデキストリンであり、トウモロコシなどの天然のデンプンから製造され、水溶液はほぼ透明で、粘性や甘みが少なく、加工性に優れている。難消化性デキストリンは、糖の吸収を穏やかにする働きがあるため、食後の血糖値上昇を抑制する効果がある。さらには、食事から摂取した脂肪の吸収を抑えて排出を増加させる働きもあるため、食後の血中中性脂肪の上昇を穏やかにする効果もある。その他にも、整腸作用、内臓脂肪の低減作用、ミネラルの吸収促進作用などの効果があるといわれている。特定保健用食品許可品目全体の約36 %が難消化性デキストリンを関与成分としており、茶飲料、清涼飲料、お菓子、乾燥スープなどが販売されている。

 

4.食物繊維の分析方法について

食品表示基準の食物繊維の分析方法は、プロスキー法(酵素-重量法)と高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)が採用されている。酵素-重量法は、高分子の食物繊維を定量することができ、酵素-HPLC法では、高分子の食物繊維だけでなく低分子の食物繊維まで定量することができる。難消化性デキストリンのような低分子水溶性食物繊維を添加してある食品の食物繊維を定量する場合には、酵素-HPLC法を適用する。

酵素-HPLC法の手順は、まず酵素-重量法で食物繊維を定量し、ろ過工程で得られるろ液中のエタノールを除去した後、イオン交換カラムに通液してたんぱく質、有機酸類、無機塩類などを除去する。イオン交換カラムの溶出液を試験溶液とし、試験溶液と三糖類のマルトトリオース溶液を高速液体クロマトグラフ(HPLC)に注入する。なお、HPLCによる食物繊維の定量では内部標準物質としてブドウ糖、又はグリセリン等を用いるが、本稿ではグリセリンを用いる場合について説明する。HPLCのクロマトグラムにおいて、マルトトリオースのピーク溶出位置を指標とし、これと同じかこれより前に溶出するピークを食物繊維画分とし、ピーク面積値を算出する。また既知濃度のグリセリンを添加内標準物質とし、そのピーク面積値も算出する。グリセリンを添加内標準物質として使用する場合は、事前に同質量のグリセリンとブドウ糖を同一条件で測定し、得られたピーク面積値の比率から補正係数を算出しておく必要がある。低分子食物繊維質量は、食物繊維画分のピーク面積値とグリセリンのピーク面積値の比率に補正係数とグリセリンの質量を乗じて算出する。明らかに低分子水溶性食物繊維だけを使用した食品(飲料等)については、酵素分解後の酵素処理液においてエタノール添加とろ過工程行わず、イオン交換樹脂によるたんぱく質、有機酸類、無機塩類などを除去の操作から行うことができる。食物繊維の検査フローを図.1、HPLCのクロマトグラム例を図.2に示す。

図1:食物繊維の分析フロー

図2:HPLCのクロマトグラム例

酵素-HPLC法では、酵素重量法により求めた食物繊維含量とHPLC法による低分子水溶性食物繊維含量を合算し、総食物繊維含量を求める。計算式は下記の通りである。

5.おわりに

健康を維持していくためにも、食物繊維を意識的に摂取していくことは大切である。どのような食品に多く食物繊維が含まれているのか、食物繊維にはどのような役割があるのかを知り、私たちの食生活における食物繊維不足を少しでも解消できるように心がけたい。特定保健用食品や機能性表示食品において食物繊維を関与成分とした商品や食物繊維量を強化した食品が今後も市場に多く出回っていくと予想されるため、食物繊維には注目していきたい。

参考文献

令和元年食品表示に関する消費者意向調査報告書 消費者庁
日本人の食事摂取基準(2020年版) 厚生労働省
食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号) 消費者庁
特定保健用食品について 消費者庁
機能性表示食品について 消費者庁
e-ヘルスネット, 食物繊維 厚生労働省