異物混入削減のための取り組み(1)
 -HACCPの活用方法とその注意点について- 

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

FQS(Food Quality Solution)室

はじめに

異物混入クレームが発生すると、混入した異物の同定、原因究明および再発防止対策の実施に多大な費用と労力が伴います。また、企業のイメージダウンにもつながることから、食品等事業者の皆様は異物混入の発生を防止することに日々苦心されていることと思います。

異物混入の発生を防止するためには、異物に関する正しい知識や考え方を理解しておく必要があります。今回の豆知識では3回にわたり、異物混入の削減に役立つ情報を紹介します。1回目の本稿では、HACCPの活用方法とその注意点、2、3回目では、異物の管理に関する考え方と教育について説明します。

1.HACCPにおける異物と実際

HACCPは基本的に健康被害を引き起こす可能性がある事象を危害要因として抽出し、それらが食品で問題にならないように管理するシステムです。そのなかで異物は、物理的な危害要因であり、一般的にガラスや鋭利な金属などが対象となります。HACCPにおいては、これらの異物を排除する最後の砦となる工程を重要管理点(CCP)として管理することで、食品の安全性を確保します。異物混入を削減するためには、食品等事業者が実施している危害要因の抽出やCCPの管理状況に問題がないかを確認することが必要です。

一方、国内の法令において、異物の明確な定義はありません。食品衛生検査指針では、「生産、貯蔵、流通、販売に至る不適切な取り扱いに伴って、食品中に混入、侵入あるいは迷入した有形外来物を対象とする」と記載があります。これらの異物は、動物性、植物性、鉱物性といった種類に分類することができ、さらに由来別に細分できます(表1参照)。

表1 異物の種類

表2に令和2年度に東京都内で報告された異物の要因別苦情処理件数を示します。苦情処理された異物の種類は幅広く、虫、毛髪、ビニール類、金属などが多く届出されています。これらの内、小さな樹脂片、毛髪、虫、紙片、繊維などは、HACCPの対象にならず、健康被害につながることは少なく、HACCPの対象にならないのですが、消費者から問題視されることが多いのが現状です。

以上より、HACCPにおける異物と、実際に消費者が認識する異物に相違があることがわかります。食品等事業者が消費者の満足する食品を提供するためには、HACCPにおける健康被害を引き起こす可能性がある異物だけでなく、健康被害につながらないような異物についても対策することが必要です。

表2 要因別苦情処理件数(異物混入)

東京都福祉保健局HP:「令和2年度 苦情処理状況 要因別苦情件数 異物混入要因」より

2.異物混入を削減するためのHACCPの活用とその注意点

HACCPの基本は、健康被害を引き起こす可能性がある危害要因の抽出および管理の徹底により食品の安全性を確保することです。さらに、上述した消費者が問題視する健康被害につながらないような異物も危害要因として抽出し管理することで、HACCPの対象とする健康被害を引き起こす異物と同様に、HACCPを活用した異物混入の削減が可能となります。

HACCPの活用で注意すべきことして以下の2つが挙げられます。

1つ目は、現状のHACCPの運用状況の確認です。HACCPの基本である健康被害を引き起こす可能性がある危害要因の抽出やその対策に不足が生じていないか、あらためて確認することが重要です。さらに、健康被害につながらないような異物を対象にする場合も、同様に確認する必要があります。

2つ目は、HACCPの運用に携わる人の理解度です。品質管理部門や製造部門の管理者などの一部の方々がHACCPを理解し、HACCPの運用に関与している一方、現場で製造作業に携わる製造部門の従業員がHACCPの考え方や実施すべき対策を十分に理解していないことがあります。この場合、危害要因の抽出不足や抽出した危害要因に対する対策が不十分となり、異物混入の発生につながることがあります。このような事態を防ぐためには、製造作業に携わる従業員の方々に対しても HACCPの考え方や実施すべき対策について教育を行う必要があります。また、異物を管理し、異物の混入を削減するためには、HACCPの考え方に加えて、異物の管理に関して、(1)異物混入リスク対策、(2)除去工程管理、および(3)異常察知の3つの考え方を理解することが必要です。

まとめ

異物の混入を未然防ぐためには、HACCPを活用し、健康被害につながらないような異物についても危害要因として抽出し、管理することが必要です。そのためにはHACCPにおける異物と消費者が認識する異物に相違があることを認識するとともに、HACCPの運用状況を見直し、製造作業に携わる全ての従業員の方々が異物混入リスクを未然に防止するための考え方を理解することが必要です。

次号では、異物の管理に関する考え方について紹介します。