異物混入削減のための取り組み(3)
-製造現場での教育手法について-

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

FQS(Food Quality Solution)室

はじめに

前号(2022年7月号)の豆知識では「異物混入削減のための取り組み(2)」として、異物混入リスクを低減するためには、①異物混入リスク対策、②除去工程管理、③異常察知の考え方を基に製造工程の実態に沿った管理体制を構築する必要があること、現場従業員の方々がこの考え方を理解し、意識を高めることが必要であることを説明しました。

3回目の本稿では、現場の従業員が異物混入削減の3つの考え方の理解を深めるための教育手法について紹介します。

1.異物混入対策の問題点と教育の必要性

食品事業者が異物混入対策を講じるなかで、発生した異物クレームへの対応のみに目を向けてしまい、適切な異物リスク箇所の抽出や管理が十分に実施できていない場合が見受けられます。異物混入の削減のためには、適切な異物リスク箇所の抽出とそれを管理できる人材を育成することが必要です。

前々号(2022年6月号)の豆知識では、HACCPを活用した異物混入削減の取り組みについて説明しました。HACCPを運用するなかで陥りやすい事象の一つとして、品質管理部門や製造部門の管理者など、一部の人のみがHACCPの運用に関与し、現場従業員はHACCPを十分に理解していないことがあります。現場従業員こそ、HACCPを理解し、異物の危害要因分析に取り組んでいただくことが大切です。

2.異物混入防止の考え方の実践教育方法

人材の育成を行うにあたり、まずは現場従業員に異物混入を未然に防止する意識を高めてもらう必要があります。そのためには、各々が前号(2022年7月号)豆知識で説明した異物混入リスクを防止するための①異物混入リスク対策、②除去工程管理、③異常察知の3つの考え方を理解して、実践できるようにします。

異物混入リスク対策の教育であれば、原材料由来、工程由来、人由来で異物となりそうなものが、どのように混入する可能性があるのかを列挙します。また、駆動する設備、劣化しやすい備品が多い設備にはどのようなものがあるのかも把握します。自社の製造ラインで実際起こった事例や、起こる可能性があるリスク箇所の事例などを教材として使用することで、現場従業員にとっては、より身近で有用な教材となり、理解しやすくなります。

また、除去工程として自社で使用している金属検出機、X線検出機、マグネットセパレーターなどの異物除去設備について、現場従業員に理解度を確認してもらうことも有効です。どの設備がどのような目的で使用されているのか、どのように捕捉し、排除するのか、能力はどのくらいで、それを維持するためにはどう管理すればよいのかなどを書き出してみると、各々が理解できていない部分が浮き彫りになります。理解不足のところを重点的に勉強し直すことで、より深く理解することができるようになります。

3.現場研修を取り入れた教育訓練方法

異物混入対策について、対面やWEBでの講義だけでは腑に落ちないことがあります。そこで異物混入リスクを低減する3つの考え方を学んだ上で製造ラインに入り、実際の現場で3つの考え方に基づき、問題点を探し、対策を考えるような研修が有効です。

下記に現場研修内容の例を示します。

① 講義で異物管理の基礎知識を学習する。

② 少数グループを組み、実際の現場に入り、一定の製造ラインを対象に現場確認を行う。

③ 異物混入リスク対策の考え方に基づき、リスクになりそうな箇所(危害要因)を探す。

④ 除去工程管理の考え方に基づき、管理状況に問題がないか確認する。

⑤ 異常察知の考え方に基づき、察知ができる体制か、判断できる基準があるのかを確認する。

⑥ 現場確認後、問題点を抽出し、重要なリスクに対しては改善案をグループで討議し、意見をまとめて発表する。

研修の参加者がお互いの意見や理解状況を確認しながら進めることによって、認識の相違やずれを修正でき、異物管理の考え方に対する理解度をより深めることができます。また、参加者相互のコミュニケーションにも寄与します。

まとめ

異物混入対策を講じるためには、現場従業員の異物混入を未然に防止する意識を高める必要があります。異物混入リスクを低減する考え方を学び、さらに現場研修を行うことで理解度を深めることができます。自社や他社で発生した異物混入事例を身近な資料として活用し、教育を行うことが有効です。

最後に、3回にわたり異物混入削減のための取り組みを説明してきました。

食品事業者がHACCPの危害要因分析を実施する際には、健康被害には至らずとも消費者が認識する異物混入まで危害要因の範囲を拡大して徹底的に異物リスクを排除することが求められます。そのリスクを一番近くで察知してほしいのが現場の従業員の方々です。すべての異物混入を未然に防ぐためには、HACCPを活用すること、異物管理の3つの考え方を現場の方が理解すること、そして、その考え方を深く理解するために、現場で異物リスクを感じとり、異物を入れない・除去する、異常を察知する考え方の実践教育をすることが異物のトラブルを低減させる近道となります。

サナテックは、異物のリスクを抽出し、未然に防止できる体制、それを実施できる人材育成をサポートします。