食品の理化学検査のための試料の前処理

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

検体調製室

はじめに

食品中の各種成分の理化学検査を行うためには、試料をそのまま検査に用いることは少なく、多くの場合、前処理が必要である。

試料の前処理において、その多くは均質化を目的とした混合粉砕等の前処理方法が用いられているが、その他にも検査の目的に適した状態にするための試料調製や検査の対象となる成分が損なわれないようにするための試料調製など特殊な前処理方法を用いることがある。

本メールマガジンでは、そのような特殊な前処理方法の一例として、残留農薬検査における「茶」の前処理方法とビタミン類の検査を対象とした試料の前処理方法について紹介する。

1. 残留農薬検査における「茶」の前処理方法

食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)において、「茶」の残留農薬基準に対する適否判定には、茶葉そのものについて検査を行う農薬と飲料茶(浸出液)について検査を行う方法が採用されており、飲料茶(浸出液)について検査を行う例としては、イミノクタジンの試験方法の試験溶液の調製において「試料 9.00 g を 100℃の水 540 mL に浸し、室温で 5 分間放置した後、ろ過する」など茶葉の60倍の沸騰水で浸出する方法がある。

 

《残留農薬検査を対象とした茶葉の浸出液の調製方法の実例》

1)沸騰水を用意する。(水は蒸留水を使用する。)

図-1-1 沸騰水の準備の様子

2)茶葉を計量する。
(抽出操作を迅速に行う必要があるため、あらかじめ計量しておく。)

図-1-2 茶葉の計量の様子

3)沸騰水を計量し、計量した茶葉に加える。
(温度低下を最小限にするため、計量を迅速に行うだけでなく、計量器具を温めてお くとよい。)

図-1-3沸騰水を茶葉に加える様子

4)蓋をして一定時間浸して抽出する。

図-1-4浸出液の調製の様子

5)茶葉を茶こしでろ過する。

図-1-5浸出液のろ過の様子

6)浸出液をよく混合する。

2. ビタミン類の検査を対象とした試料の前処理方法

ビタミン類の検査を対象とした試料の中で、そのまま粉砕すると分解や酸化によって目的成分の損失が生じる可能性がある生鮮食品などの試料については、調製時に分解や酸化を防止するための処理を行う必要がある。例えば、ビタミンA(レチノール及びカロテン)やビタミンEなどの脂溶性ビタミンの検査を目的とした試料の前処理としては、ピロガロールによる処理、ビタミンB1、B2、Cなどの水溶性ビタミンの検査を目的とした試料の前処理としては、メタリン酸による処理を行うことで、粉砕等の調製時の分解や酸化を抑えることができる。なお、添加したピロガロールやメタリン酸の重量を使用して、前処理した試料の検査結果を補正することで、試料の検査結果に影響を及ぼすことなく検査することができる。

 

《ビタミン類の検査を対象とした果実の調製方法の実例》

 

1)検査対象でない部位があればあらかじめ除き、大きい場合は縮分する。

図2-1 除去部位分けと縮分の様子

2)粗切する。
(試料の劣化を防ぐため(2)粗切から(4)試薬の投入までの操作は迅速に行う。)

図2-2粗切の様子

3) 粗切品を混合し、検査の必要量を取り粉砕容器に取り分け、試料を計量する。

図2-3試料の計量の様子

4) ビタミンKを除く脂溶性ビタミンを検査の対象とする場合には、ピロガロールまたはその溶液を、ビタミンB1・B2・Cを検査の対象とする場合には、メタリン酸溶液を加える。計算時に重量補正を行うため試薬投入量を計測する。

図-2-4試薬の添加の様子(ビタミンC検査用:メタリン酸溶液の例)

5)混合粉砕を行う。

図-2-5 混合粉砕の様子

おわりに

食品の理化学検査のための試料の前処理において、検査の目的や検査の対象となる成分に応じた適切な前処理が実施されていない場合、その後の検査を精度よく行っても規格基準との比較ができない、妥当な結果が得られない等、その検査結果は意味をなさないものとなる。検査の目的や検査の対象となる成分に応じた食品の前処理が非常に重要な工程の一つであることを、食品の検査に携わる者は常に認識しておかなければならない。

参考文献

厚生労働省HP

「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/591228-1.html

 

「イミノクタジン試験法」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu /0000075452.pdf

 

日本食品標準成分表 2015年版(七訂)食品マニュアル・解説

文部科学省技術・学術政策局 政策課 資源室 監修
安井 明美、渡邊 智子、中里 孝史、渕上 賢一 編
(建帛社、2016年)