ポジティブリスト制度が2006年に施行されて17年になる。残留農薬の高濃度での違反は少なくなり、メディアでの残留農薬の話題も以前に比べて格段に少なくなった。しかし、農薬が全く検出されなくなったという訳ではない。正しく農薬を使用しないと基準値を超える危険性があり、また、日本と基準値が異なる国からの作物の輸入にも注意が必要である。そこで本稿では、残留農薬の基準値と分析値の比較について今一度確認していきたい。
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第二理化学検査室
ポジティブリスト制度が2006年に施行されて17年になる。残留農薬の高濃度での違反は少なくなり、メディアでの残留農薬の話題も以前に比べて格段に少なくなった。しかし、農薬が全く検出されなくなったという訳ではない。正しく農薬を使用しないと基準値を超える危険性があり、また、日本と基準値が異なる国からの作物の輸入にも注意が必要である。そこで本稿では、残留農薬の基準値と分析値の比較について今一度確認していきたい。
残留農薬の基準値は人の健康を損なうおそれのない量で設定されている。食品安全委員会は人が摂取しても安全と評価した量の範囲として許容一日摂取量(ADI)、急性参照用量(ARfD)を毒性試験データ等から設定し、この設定値から厚生労働省は薬事・食品衛生審議会での審議を経て、国際基準値も参考にしながら基準値を設定している※1。
食品ごとの基準値を調べるには、公益財団法人日本食品化学研究振興財団のWebサイトにある「残留農薬基準値検索システム」※2が便利である。この検索システムは、農薬名や食品分類から残留農薬の基準値を検索することができる。また、分析値を基準値と比較する際には、全ての分析対象化合物を測定する必要があるが、この検索システムでは農薬ごとに分析対象化合物も確認することができる。
農薬が基準値を超えて残留する食品の販売、輸入などは食品衛生法により禁止されている。そのため、分析値が基準値を超えているか否かを判断する方法は重要である。
基準値 0.10 ppmの場合を考えてみたい(表1)。分析値は、基準値より1桁多く求め、その多く求めた1桁について四捨五入するものとする。※3試験溶液を測定することで得られる生データを測定値とし、測定値を基準値より1桁多い少数第3位で四捨五入すると、①の場合は分析値が0.10となり、基準値を超えていないため適合である。一方、②の場合は分析値が0.11となり、基準値を超えるため違反である。
基準値 0.1 ppmの場合はどうだろうか(表2)。基準値が 0.1 ppmのため、測定値を少数第2位で四捨五入する。③の場合は分析値が0.1となり、基準値を超えていないため適合である。一方、④の場合は分析値が0.2となり、基準値を超えるため違反である。
基準値 0.10 ppmの場合(表1)では0.104と0.105の間が違反かどうかの境目であるのに対し、基準値 0.1 ppmの場合(表2)では0.14と0.15の間が境目になる。このように同じように見える基準値でも全く異なるため注意が必要である。
基準値と分析値を比較するにあたり、食品の検査対象部位や、分析対象化合物が複数ないか、分析した検体の状態(乾燥・濃縮の有無)などを確認する必要もある。
食品によっては検査対象部位が設定されている※4。例えば「みかん」の検査部位は、「外果皮を除去したもの」と記載されているため、みかんの皮を除去したものを検査しなければならない。しかし、同じ食品でも農薬によっては検査部位が異なるものも存在するため注意が必要である。食品分類のみかんを検索してみよう。MCPAやアフィドピロペンなどの留意点欄に「外果皮を含む。」と記載がある。この農薬の場合、みかんの皮も含めたもので検査する必要がある。
分析対象化合物が複数ある場合には、全ての分析対象化合物を検査する必要がある。しかし、スクリーニング検査として行う一斉試験法では分析対象化合物を全て網羅できないため、一概に基準値との比較はできない。また、加工食品としての基準値が一部あるが、原則基準値は生鮮食品としての基準値であるため、分析した検体が乾燥野菜の場合、水分含量から濃縮度を算出し、生鮮品に換算して比較する必要があることも覚えておきたい。
輸入食品を口にすることが多い現代。収穫した国の栽培方法、使用農薬、基準値などは様々であるが、日本で食するのであれば、日本の基準値を満たさなければならない。農薬の基準値と分析値を比較するにあたり参考にしていただければと思う。
※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html
(厚生労働省ホームページ)
※2 https://db.ffcr.or.jp/
(公益財団法人日本食品化学研究振興財団 残留農薬基準値検索システム)
※3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/zanryu3/siken.html
(厚生労働省ホームページ 食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法)
※4 https://www.ffcr.or.jp/zanryu/positive/post-123.html
(公益財団法人日本食品化学研究振興財団 農薬等の残留基準試験用検体)