当財団にご依頼いただいた微生物の同定検査の件数内訳を図2に示します。ご依頼数としては細菌が最も多く、その次にカビ、酵母と続きます。ご依頼背景の多くはクレーム原因の調査であり、近年では消費者の食品の安全に対する意識が高くなっていることから、その依頼数は増加傾向にあります。
図2. 同定検査の微生物の内訳
図3. 細菌の内訳
細菌の同定検査では、変敗品の原因調査だけでなく、培養法による検査結果の考察や、ご依頼者の自社検査で検出されたコロニーに関する相談も多くいただいています。同定検査の結果(図3)の中で上位を占めるのは、土壌菌であるBacillus属やPaenibacillus属です。これらは、加熱やアルコール、UVに耐性をもつ芽胞を形成するため、製造工程で死滅させにくい細菌です。Enterobacter属、Staphylococcus属、Lactobacillus属は、ヒトを含む動物の表皮・腸内常在菌であり、製造工程における二次汚染菌として混入しやすく、検出率が高い傾向にあります。Lactobacillus属をはじめとするLeuconostoc属やEnterococcus属などの乳酸菌は、食品腐敗菌としても広く知られており、中でもLeuconostoc属やEnterococcus属などの一部の種は80℃、20~30分の加熱でも生存し、酸敗や膨張などの原因となります。
図4. カビの内訳
図5. 酵母の内訳
続いて多いのはカビの事例で、カビは食品の外観に大きな影響を与えます。異物検査としてもご依頼いただき、カビ毒産生との関連についてご相談いただくこともあります。同定されたカビ(図4)のうち、上位はPenicillium属、Aspergillus属、Cladosporium属です。これらはそれぞれアオカビ、コウジカビ、クロカビとも呼ばれ、食品だけでなく住居や資材など、環境全般の汚染カビとして頻繁に検出されています。Penicillium属とCladosporium属は低温に強く、冷蔵庫などの低温度帯でも成長が可能です。また、Penicillium属とAspergillus属は乾燥に強く、カビが生える場所のイメージとして一般的なジメジメした環境でなくとも生育することができます(主にナッツ類や穀類等に分布)。このような生育範囲の広さが、これらのカビによる汚染の多さの要因の一つとなっています。
後に続くEurotium属とWallemia属は好乾性のカビで、菓子類やジャム類などの水分活性の低い食品のほか、書籍、カメラレンズ、靴、ダンボールなどにも生育します。
酵母の同定検査の結果を図5に示します。一般的に酵母は浸透圧に耐性を持っており、高塩分食品や高糖質食品にも生育できるほか、アルコール資化性を持つなど制御の難しい微生物です。製品の膨張や、変色といった事例で多く検出されます。
事例数の上位はCandida属であり、食品をはじめヒト・動物にも広く分布します。続いて強いアルコール発酵能を持つZygosaccharomyces属やPichia属、そして水回りにおける所謂「ピンクぬめり」として知られるRhodotorula属となっています。