食品分析に供する検体の均質化に使用する調製器具とその洗浄方法について

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

検体調製室

はじめに

食品分析を行う場合、もともと均質な検体でない限り、分析対象成分の偏りをなくすために均質化が必要である。食品分析において検体の均質化に使用する調製器具は、対象が食品であることもあり、主に家庭や厨房で用いられている調理器具が使用される。調製器具にはいろいろな形式のものがあるが、調製された検体のどの部分を採取しても検体を代表するように適切な調製器具と前処理方法を選択し、調製を行わなければならない。

また、通常、調製に使用した器具は繰り返し使用するため、洗浄が不十分であると調製器具に付着し、残った検体が、次に調製する検体に混入し、分析結果に影響を及ぼす可能性があるため、適切に調製器具を洗浄することが重要である。

本稿では、食品分析に供する検体を均質にする調製器具とその適切な洗浄方法について紹介する。

<調製器具について>

検体の均質化に用いる調製器具は、食品の性状や特性を考慮し選択する必要がある。例えば、生鮮野菜や総菜などのように水分を多く含む食品にはフードプロセッサーやミルなどの粉砕機が使われ、乾燥した穀類や繊維質を多く含む食品の粉砕には金属製のミルやブレンダーなどのより強力な粉砕機が必要となる。粉砕機の例を図1に示す。

図1に示した粉砕機のように、モーターによって回転刃を回転させることで均質化する調製器具を用いる場合、その回転刃の種類の選定にも注意が必要である。回転刃はステンレス製のものが多く用いられている。ステンレスにはクロムやモリブデンが含まれ、検体への混入が懸念されることから、これら金属の分析においては、チタンコーティングされた回転刃を用いることが望ましい。また、調製時にモーターで回転刃が高速回転することで発生する熱による分析対象成分の分解など減衰しないような工夫が必要である。例えば、検体を予め包丁などで細かく刻んでおくことや凍結しておくことで、調製に要する時間を短縮したり、調製時の発熱を抑え、検体に及ぼす熱の影響を最小限に抑えることができる。

このように、食品分析において、調製した検体のどの部分を採取しても検体を代表するような均質化を行うためには、食品の性状や特性を把握することはもちろんであるが、調製器具の特性を正しく理解し検体に適した調製器具を選択することが重要となる。

 

フードプロセッサー

ミル

金属ミル

ブレンダー

大型粉砕機

超遠心粉砕機

図1 粉砕機の例

<洗浄について>

検体調製に主に使用する調製器具は、図1に示した粉砕機のように、本体(モーター部分)と粉砕・混合部(容器部分)が分離できるなど、検体が接する部分が容易に洗浄できるものが、検体間の相互汚染を防止する観点からも望ましい。これらの回転により調製を行う調製器具は、回転刃や軸に検体が付着するため、洗浄時には回転刃を入念にブラッシングする必要がある。ブラシが届きにくい複雑な形状のものを洗浄する場合には、超音波洗浄機を利用すると効率的に汚れを除去することができる。

また、調製器具の洗浄には食器洗浄機も効果的である。食器洗浄機は、高温で洗浄ができるため、油汚れなどを効果的に除去することができるだけでなく、洗浄後の乾燥時間の短縮も期待できる。その他、複数の調製器具を同時に洗浄することができるなど利点は多いが、相互汚染の危険があることには常に注意が必要である。業務用食器洗浄機の例を図2に示す。

食器洗浄機を使用する際の注意点として、調製器具の汚れがひどい場合は、薄めた洗剤につけ置きした後に食器洗浄機を使用することで、汚れ落ちがよくなる。また、有害物質で高濃度に汚染された検体を扱ったような調製器具については、洗浄前に、その有害物質が溶けやすい溶媒で必ず洗い流すなど、ひと手間をかけることによって汚れの付着を防ぎ、他の器具への汚染を低減できる。

 

図2 業務用食器洗浄機の例

<洗浄剤について>

調製器具の洗浄において、効率よく器具の汚れを落とすためには、汚れに応じた洗浄剤を選択する必要がある。洗浄剤の例を図3に示す。

一般的には、業務用の食器用洗剤のような中性洗剤が使われており、様々な食品による汚れの洗浄に幅広く対応している。中性洗剤を使用した洗浄において、洗浄不足となる例として、米飯のようなデンプンやたんぱく質を含む汚れ、及び油汚れが挙げられる。前者は、酵素洗剤を用いてつけ置き洗いをすることで、粘つきを効率よく落とすことができる。後者は、家庭用の弱アルカリ性洗剤を用いることで効果的に汚れを落とすことができる。

 

中性洗剤

酵素洗剤

図3 洗浄剤の例

<最後に>

調製器具の選択や使用方法を誤ることで均質化が不十分な検体を作り出したり、洗浄不良で汚染した調製器具を使用することで検体を汚染したりすると、どれだけ、その後の分析操作を正確に行っても妥当な結果を得られないのは明らかである。食品分析において正しい分析結果を得るために、検体の調製時に使用する調製器具の選定とその洗浄方法に注意を払うことは、極めて重要である。

参考文献

 
菅原龍幸・前川昭男監修『新食品分析ハンドブック』建帛社、平成12年11月20日発行、p1-4