食品事業者によるリコール事案の傾向について

一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC

FQS(Food Quality Solution)室

1. はじめに

令和3年6月1日から、食品衛生法及び食品表示法に基づき食品事業者が自主回収(以下、リコールという。)を行った場合、行政機関への届出が義務化される食品等リコール報告制度が施行されました。この制度は、行政が食品事業者によるリコール情報を確実に把握し、的確な監視指導や消費者への情報提供につなげることにより食品による健康被害の発生を防止することが目的です。また、消費者にとっては速やかにリコール情報を把握することができ該当する食品の喫食を避け回収に協力することができます。食品事業者は、届出されたリコール情報を常に把握することで、安全な原材料等の仕入れに活かすことや、自らの施設において起こり得る事案かどうか把握し、未然防止に努めることも可能です。

そこで本稿では、本制度の概要と令和4年度に国内において報告された回収事案の内容を整理し傾向を紹介します。

2. 食品等リコール報告制度の概要

食品事業者は食品等のリコール事案や回収状況について食品衛生申請等システムを利用してオンライン上で届出を行います。届出を受理した国(厚生労働省、消費者庁)は、リコール情報を一元的に管理し公開回収事案として同システム上に公表します。

⑴ 届出の対象

  • ① 喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性の高い、例えば腸管出血性大腸菌により汚染された生食用食品やアフラトキシン等の発がん性物質に汚染された食品等、主に食品衛生法第6条に違反する(又は違反のおそれがある)食品、並びに、一般細菌数や大腸菌群等の成分規格や添加物の使用基準等を逸脱した同法第13条に違反する(又は違反のおそれがある)食品
  • ② 喫食により直ちに消費者の生命又は身体に対する危害の発生の可能性の高い、例えば、アレルゲンや消費期限等の安全性に関する表示の欠落や誤表示等、食品表示法第6条第8項の規定に違反する(又は違反のおそれがある)食品

⑵ 健康被害発生を考慮したCLASS(クラス)分類

食品事業者からの報告に基づき、行政機関においてリコール情報を管理する際、リコール事案ごとに該当する法律に基づいて喫食による健康被害の可能性を考慮し、危害度に従って分類します。

食品衛生法関連の事案については以下のように三つのクラスに分類されます。

  • ① CLASS I:喫食によって重篤な健康被害や死亡の可能性が高い事案
  • ② CLASS II:喫食によって重篤な健康被害や死亡の可能性が低い事案
  • ③ CLASS III:喫食による健康被害の可能性がほとんどない事案 また、食品表示法関連の事案については以下のように二つのクラスに分類されます。
  • ① CLASSⅠ:喫食により直ちに消費者の生命又は身体に対する危害の発生の高い事案
  • ② CLASSⅡ:喫食により直ちに消費者の生命又は身体に対する危害の発生の可能性があるものでCLASSⅠに分類されない事案

 

図1. リコール食品等のCLASS分類

⒊ リコールの発生状況(令和4年度)

厚生労働省の食品衛生申請等システムにおいて公表されているリコール情報をもとに内容を整理しました。

令和4年度中に食品衛生法違反(違反のおそれを含む)によるもの202件(29.2%)、食品表示法違反(違反のおそれを含む) によるもの490件(70.8%)のリコール報告がありました(図2)。

 

図⒉ 法律別報告件数(令和4年度)

⑴ CLASS分類別報告件数

食品衛生法関連では、CLASSⅡやCLASSⅢに分類される事案が全体の76.2%と大半を占めていましたが、CLASSⅠに分類される危害度の高い事案も全体の23.8%報告されていました(図3)。

一方、食品表示法関連では、CLASSⅠ、Ⅱともほぼ同率でしたが、CLASSⅠに分類されるアレルゲン等の表示の不表示、誤表示等、表示違反事案が53.3%も占めていることは、問題視しなければなりません(図4)。

 

図⒊ CLASS別報告件数(食品衛生法関連)(令和4年度)

 

図⒋ CLASS別報告件数(食品表示法関連)(令和4年度)

⑵ 回収理由別、CLASS分類別報告件数

  • ① 食品衛生法

    回収理由として異物混入、規格基準違反及び有害微生物の残存が合わせて全体の63.4%を占めていました(図5)。異物混入では硬質異物である金属片の混入、規格基準違反では添加物の使用基準違反、有害微生物の残存ではカビの発生が多く報告されていました。

 

図⒌ 回収理由別報告件数(食品衛生法関連)(令和4年度)

CLASSⅠに分類される事案では異物混入が全体の60.4%を占め、原因となった硬質異物の種類としては、金属片が48.3%と非常に多く、次いでガラス片、プラスチック片の順でした(図6、図7)。金属異物には、原材料に由来するジビエ肉を使用した食肉製品に散弾銃弾が混入していた事案、製造工程に由来する事案としては生産ラインの機械部品から剝離したアルミニウム、調理器具(食肉の筋切用器具)の刃こぼれ、ステンレス製の金タワシの欠損等の混入報告がありました。大半の食品事業者ではこれらの金属異物の混入対策にHACCPシステムによる管理の中で金属検査機によるモニタリングを実施しています。しかし、HACCPシステムが適正に機能していない、または機器器具や調理器具の日常点検が適確に実施されていなかったことが示唆されました。

有害微生物の残存の事案には、腸管出血性大腸菌O26が検出された馬刺し(馬脂肪注入冷凍馬肉)生食用が全国に流通し、健康被害が1名発生した事例が報告されていました。

 

図⒍ 回収理由別報告件数(食品衛生法関連 CLASSⅠ)(令和4年度)

 

図⒎ 混入異物の種類(食品衛生法関連 CLASSⅠ)(令和4年度)

CLASSⅡに分類される事案では、有害微生物の残存、誤って期限切れの製品を販売又は期限切れの原材料を使用したこと、異臭や膨張等の製品異常が主な回収理由でした(図8)。規格基準違反では大腸菌群の検出事案が多く報告されていました。有害微生物の残存事案の中では、製品のカビの発生が93.0%を占めていました(図9)。

 

図⒏ 回収理由別報告件数(食品衛生法関連 CLASSⅡ)(令和4年度)

 

図⒐ 有害微生物の種類(食品衛生法関連 CLASSⅡ)(令和4年度)

CLASSⅢに分類される事案では、規格基準違反が全体の76.5%を占めていました(図10)。規格基準違反の種類別にみますと、添加物の使用基準違反が53.9%と最も多く報告されており、例えば、ジャムに使用できない安息香酸を使用していた事案、チョコレートに使用できないソルビン酸を使用していた事案等、その多くは輸入食品に関するものでした。また、次いで残留農薬の基準違反が26.9%を占めており、多くは一律基準(0.01ppm)をわずかに超過している事案でした(図11)。

 

図⒑ 回収理由別報告件数(食品衛生法関連 CLASSⅢ)(令和4年度)

 

図⒒ 規格基準違反の種類(食品衛生法関連 CLASSⅢ)(令和4年度)

  • ①食品表示法関連

    回収理由として、期限表示の誤表示・不表示が33.3%と最も多く、次いでアレルゲン誤表示・不表示22.0%、製品ラベルの貼り間違えに起因する表示違反18.2%の順でした(図12)。

    CLASSⅠに分類される事案の中では、アレルゲンの誤表示・不表示が40.2%と多く、そのうちの大半(91.7%)が、小麦、卵等の特定原材料の誤表示・不表示が占めていました。また、製品ラベルの貼り間違え、日本語以外の言語による表示もそれぞれ29.4%、21.6%と多く、その大部分がアレルゲンの誤表示・不表示の違反にもつながる事案でした(図13)。

 

図⒓ 回収理由別報告件数(食品表示法)(令和4年度)

 

図13. 回収理由別報告件数(食品表示法CLASSⅠ)(令和4年度)

おわりに

令和3年6月に施行された食品等リコール報告制度では、年間700件余のリコール情報が食品事業者から報告されています。以前は各自治体がそれぞれ条例に基づき独自に食品事業者に対し自主回収時の報告を義務化していましたが、国が情報を一元的に管理することにより消費者への速やかな提供が可能となり、対象食品の喫食を防止し健康被害を未然に防止することができるようになりました。また、行政機関によるリコール情報のリスク評価としてCLASS分類が行われて公表されることは、消費者にとってより正確な情報教授の場となっていると言えます。

今回、令和4年度中に報告されたリコール事案の内容を整理した結果、危害度の高いCLASSⅠに分類される事案をみてみますと、食品衛生法関連では硬質異物の混入事案が最も多く、中でも製造工程中の金属片の混入が多数報告されており、製造管理の徹底の重要性が示唆されました。また、食品表示法関連ではアレルゲンの誤表示・不表示が最も多く、食物アレルギーの発症数、重篤度が高いとされる小麦、卵等の特定原材料の表示欠落が大半を占め、非常に危険な状況でした。

これらの自主回収事案は、令和3年6月の法改正によりすべての食品事業者に義務化されたHACCPシステムによる衛生管理やその前提条件といわれる一般衛生管理、またその他の食品安全マネジメントシステムが適正に運用されていれば回避できた可能性が非常に高いと言えます。しかし、大半の食品企業では、すべての食品製造又は販売に携わる者がこれらシステムを正しく理解し実践しているかと言うと疑問です。このような状況において食品等リコール事案の発生を未然に防止するため、製造施設や衛生管理システムの再点検の実施、及び従業員に対する定期的な衛生教育の実施の必要性を感じます。

食品等リコール報告制度は、消費者への情報提供、行政機関の監視指導での活用のみならず、食品事業者にとっても、自らの製造又は販売管理上において有益な情報源であり、常に情報を把握し活用すべきものであると考えます。

 

最後に、当財団では、異物検査、臭気分析の実施とともに、食品事業者におけるクレームの再発防止に関するコンサルティングも行っておりますので、ぜひお問合せください。

参考

〇厚生労働省HP

  • ・自主回収報告制度(リコール)に関する情報
  • ・公開回収事案検索
  • ・食品衛生申請等システム

〇消費者庁HP

  • ・食品表示リコール情報及び違反情報サイト