酸価、過酸化物価について

一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC

第一理化学検査室

1.はじめに

私たちの周りには油脂を含む食品、油脂を使って加工された食品がたくさんあります。食品中の油脂は、食品を空気になるべく触れないようにして低温下で保存すれば品質はほとんど変化しませんが、長時間空気に触れたり、高温で加熱したりすると酸化されて変質します。油脂の変質は食品の品質に大きく影響し、変質が著しい場合は異臭を生じたり、栄養価の減少が起こる場合もあり、安全性にも問題が出てくるため変質の度合いを評価することは重要です。油脂の変質の程度の参考となる値として酸価、過酸化物価、カルボニル価、ヨウ素価などが挙げられますが、今回は一般的に油脂の品質評価によく用いられる酸価、過酸化物価について紹介します。

2.酸価の定義とその測定について

基準油脂分析試験法において、酸価は「油脂 1g 中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数」と定義されており、油脂中の遊離脂肪酸の量を示すものです。

基準油脂分析試験法では酸価は試料から抽出した油脂を中性溶剤(ジエチルエーテル及びエタノールを1:1で混合し、水酸化カリウムーエタノール溶液で中和したもの)で溶解し、0.1 mol/L 水酸化カリウム標準液で中和滴定します。滴定時の反応式は以下の通りです。また、酸価の操作フローを図1に示します。

R-COOH+KOH→R-COOK+H2O

 

図1 酸価の操作フロー

 

変質した油脂は加水分解やカルボニル化合物の酸化により脂肪酸が遊離するいわゆる 酸敗が起こり、酸価は上昇します。また、フライのように水分存在下で高温処理する際にも加水分解が起き、酸価が上昇するためフライ油の品質の指標にもなります。また、油脂製造において、未精製の油脂には遊離脂肪酸が含まれていますが、精製工程でアルカリ処理によってこれを除くため、精製油の酸価は非常に低くなっています。したがって、酸価は油脂精製度の目安にもなります。ただ、酸価は油脂が加水分解した程度を知る指標なので、常温保存下での数値変動幅が小さく、自動酸化の進行度をはかる際には過酸化物価を評価するほうが良いと言えます。

3.過酸化物価の定義とその測定について

基準油脂分析試験法において、過酸化物価は「油脂の酸価、過酸化物価の測定法に基づき試料にヨウ化カリウムを加えた場合に、遊離されるヨウ素を試料1kg に対するミリ当量数で表したもの」と定義されており、油脂中の過酸化物の量を示すものです。

過酸化物価の操作フローを図2に示します。試料から抽出した油脂を酢酸とイソオクタンの混液に溶解し、飽和ヨウ化カリウム溶液を加え反応させた後、チオ硫酸ナトリウム標準液で滴定します。試験法の原理は次式に示すように、酸性溶液中で過酸化物が過剰に加えたヨウ化カリウムと反応し、ヨウ化物イオンを酸化してヨウ素を遊離させます。過酸化物の量が多いほど遊離するヨウ素も増加するため、ヨウ素をチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することにより、過酸化物の量を測定します。

  R-OOH+2I-+2H+→R-OH+I2+H2O

  I2+2S2O32-→S4O62-+2I-

 

図2 過酸化物価の操作フロー

 

酸敗した油脂中に存在する過酸化物は主としてヒドロペルオキシドで、それに環状ペルオキシド、ペルオキシ基で結合した重合体、過酸化水素なども含みます。ヒドロペルオキシドは油脂の自動酸化反応における第1次生成物なので、過酸化物の測定は変質の程度を知る有力な方法です。しかし、過酸化物は安定なものではなく第二次、第三次生成物に変化していきます。特に熱、光、重金属などの作用によって分解速度が大きくなるため、加熱した油脂や変質程度の進んだ油脂おいても過酸化物価は低いことがあります。

4.酸価、過酸化物価に関する規格基準

表1に酸価、過酸化物価に関する規格基準を示します。このように酸価、過酸化物価は食品の主要成分である油脂の劣化状況を示す指標として広く用いられています。

 

表1 酸価、過酸化物価に関する規格基準

食品 規格基準
即席めん類

●即席めん類(めんを油脂で処理したものに限る)は、めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、又は過酸化物価が 30 を超えるものであってはならない。(食品衛生法)

●めんを油で揚げた「フライめん」において、油処理により乾燥したものの油脂にあっては、酸価が1.5以下であること。

(日本農林規格)

油脂で処理した菓子(油脂分を粗脂肪として10%(重量%)以上含むもの)

●その製品中に含まれる油脂の酸価が3を超え、かつ、 過酸化物価が 30 を超えるものであってはならない。 (菓子指導要領)

●その製品中に含まれる油脂の酸価が5を超え、又は過酸化物価が50 を超えるものであってはならない。(菓子指導要領)

食用油脂

●ごま油 酸価≦4.0 ●精製ごま油 酸価≦0.20

●なたね油 酸価≦2.0 ●精製なたね油 酸価≦0.20 等

(日本農林規格) ※油脂の種類、精製の有無によって規格値がある。

参考文献

1)
公益社団法人 日本油化学会、基準油脂分析試験法 2013年度版、(2013)
2)
公益社団法人 日本薬学会、衛生試験法・注解 2020、金原出版株式会社 (2020)
3)
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会資料(参考資料8)
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000ip55-att/2r9852000000ipvm.pdf
4)
農林水産省 食用植物油脂の日本農林規格
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_01_syokyu_160224.pdf