様々な食品の試料調製における注意点

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC

検体調製室

<はじめに>

食品分析を行うためには分析に供する試料が均質化されている必要がある。試料調製における均質化とは検査対象成分が試料の全体に分散され偏りがなく、どこを採取しても検査結果に大きく影響しない状態にすることであるが、食品は多種多様であり、検査対象成分が偏在しているものや不均一であることが多く、さらに物性の異なる成分が混在することもあるため、均質化は容易なことではない。試料調製をすることで、検査対象成分が増加、減少、変化してしまうこともある。

本稿では食品の特性別に実際の均質化の方法を注意すべき箇所を踏まえ、実例を紹介したい。

<熱により溶解する食品/チョコレート>

固形のチョコレートやカレールーの場合、粉砕時に発生する熱により溶けてしまい油分が分離することがある。一部が溶けることで物性が不均一となるため、熱の影響を低減する工夫が必要となる。粉砕時間を短くすることや冷却した状態で粉砕することが考えられるが、粉砕時間の短縮のため強力な粉砕機を用いると刃の軸周辺が回転による摩擦熱の影響により高温になりやすいし、冷却はあらかじめ準備が必要となる。

常温で粉砕する場合には包丁やスライサーを用いて薄切りにした後、回転が緩やかなフードプロセッサーなどの粉砕機を用いると均質化しやすくなる。図1にチョコレートを常温で調製した様子を示す。

調製前

 

包丁で薄切り

 

調製後

 

図1 チョコレートの調製

<油分や付着物が分離する食品/ポテトチップス>

ポテトチップスやクッキーなどの菓子類には油分の含有量が高いものが多い。製造工程により違いもあるが、ポテトチップスは一般的にスライスしたじゃがいもを高温の油で揚げた後、味付けされており、油分を多く含んでいる。チョコレートと同様に粉砕時の熱には注意が必要で、粉砕機で回転しすぎると油分が分離することがある。均質に調製するためには粉砕時の回転数を抑える必要があり、ふるいなどを用いて細かくなったものを選り分け、段階的に粉砕することで油分の分離を最小限にすることができる。

また、包装容器の内側には油分や味付け品(塩、海苔等)が付着している場合があり、輸送過程において付着している量には違いが生じるため、検査対象成分によっては包装容器に付着している試料を含めて均質化が必要となる。図2にポテトチップスのような油分や付着物を含む食品を調製した様子を示す。

調製前

 

調製後

 

図2 油分や付着物を含む食品の調製

<複数の食材からなる食品/弁当>

様々な食材が混在している弁当はすべてを同時に粉砕機で粉砕すると食材の特性によっては細かくならずに、途中でその食材の一部を抜き取り別の粉砕機で細かくするなどの手間と時間を要する場合がある。この場合、あらかじめ特性毎に食材を分け均質化した後に混合する方が同時に粉砕するよりも均質かつ少ない時間で調製することができる。

特性毎の食材の均質化では時間を要すことがあるため、検査対象成分によっては成分の増加や減少を防ぐ処置が必要となる。図2に弁当を調製した様子を示す。

調製前

 

特性毎に分け均質化

 

混合

 

調製後

 

図2弁当の調製

<繊維質を多く含む食品や飼料/稲>

稲などの繊維質を多く含む試料は強力な粉砕機を用いても、繊維が断ち切れずに残ってしまうことがある。あらかじめスライサーなどを用いて数センチほどに切った後、粉砕機で粉砕し、さらにふるいを用いて選別し、ふるいの上に残ったものをさらに粉砕する。粉砕とふるいによる選別を何度か繰り返す必要があるため非常に労力と時間を要すことになる。このような場合、遠心粉砕機が有効であるが、高温になりやすいため、熱の影響により減少する検査対象成分を含む試料においては調製方法の選択に注意が必要である。図3に稲を遠心粉砕機で調製した様子を示す。

調製前

 

調製後

 

図3 稲の調製

<試料調製により検査対象成分が変化する食品/生鮮野菜>

農産物や畜水産物などの生鮮食品には種々の酵素が存在するため試料調製(粉砕)や検査を開始するまでの保管時にも検査対象成分が分解等により減衰する恐れがある。食品分析に供する試料はいつ採取しても同じ結果が得られるように調製することが求められるため、検査対象成分が変化しないように、試料調製を行う必要がある。

例えば、生鮮野菜で水溶性のビタミン(ビタミンCやビタミンB1、B2など)を検査対象とした試料調製はメタリン酸溶液(酸性溶剤)と生鮮野菜を混合粉砕することで、調製時の酵素分解を抑えることができる。粉砕前にあらかじめ溶液(メタリン酸溶液)と試料(生鮮野菜)の重量を測定しておくことで、試料採取量を補正できるため検査結果に影響をおよぼすことはない。

(メールマガジンvol.198 2022年9月号参照)。

https://ssl.mac.or.jp/memberregistration/trivia.php?id=48

<さいごに>

近年、ライフスタイルが多様化し食生活も変化しており、以前にはなかった新たな食品の加工法も増えている。食品分析の最初の工程である試料調製は分析結果に大きく影響することから、多様な食品に対応するためには原材料の情報や製造過程を踏まえた食品の特性を把握しておく事は非常に重要と言える。

参考文献

菅原龍幸・前川昭男監修『新食品分析ハンドブック』建帛社、平成12年11月20日発行、p1-4